処理水"猛反発”中国は今…放出から3週間 姿消した“迷惑電話”動画 一方で「核汚染水」批判報道続く
■放出には反対も…“ばかげた国民と一緒にしないで” 冷静な声も
処理水の放出自体には、依然、およそ8割の国民が反対している印象だ。「安全なら日本人が処理水を飲んでみろ」など批判的な声もあれば、海洋汚染を懸念してスーパーマーケットで食塩が品薄になった際は、取材中、男性客から「日本人のせいだ」と怒鳴られたことがあった。 しかし、何よりも不気味だったのはこの間、当局がわたしたちを先回りする形で取材妨害の手を打ってきたことだ。取材先にインタビューの約束をした後、私たちが実際に訪ねようとすると、その直前に当局者とみられる人物から取材先に圧力がかかるようになったのだ。「日本メディアから何の取材を受ける予定なのか」「あなたの店が入る建物の管理会社の許可がなければ取材を受けてはいけない」といった連絡が取材相手に入ったという。取材の約束は電話などで主に日本語で行っていたのだが、どのように中国当局が把握したのかわからない分、非常に不気味に感じた。当局は日本メディアによる処理水放出をめぐる報道にも神経をとがらせているようだ。 ◇ 中国の友人が処理水について、私にこう語った、「中国人には3つの“あん”がある」。 1つ目の“あん”は「暗示」。メディア報道によって処理水が危険だと暗示にかけられているのかもしれない…と内心分かっている国民もいるという。 2つ目は「安全」。日本人が日本各地でおいしそうに刺し身を食べているから安全なはず…と、どこかで理解しているという。 3つめは「安心」。科学的に問題ないことは頭では理解できても、なんとなく不安な気分は残る。「安全」と「安心」は違うんだとも話していた。 中国の国民に根強く浸透した、処理水への不安。改めて痛感したのは、メディアの影響力の大きさだ。 香港メディアは「日本の国旗が爆売れ! 踏みつけ動画も相次ぐ」といったタイトルとともに、日本国旗を足ふきマットなどに利用する中国国民が増え、販売量が急増したと報道した。しかし実際は中国国内で騒ぎになっておらず、反日運動を助長するかのような動きも一切見られない、事実とは異なるニュースだ。 「岸田首相が食中毒で入院しているんだろう?」と私たちに大真面目に聞いてくる水産業者もいる。そんな彼らの表情を見て、「報じ方1つで、デマもまるで“真実”のように伝わってしまう」と恐怖すら感じた。 多くの中国の人々は連日、洪水のように繰り返された“アンチ処理水報道”によって、漠然とした不安は長く残ってしまう可能性がある。ただ、迷惑電話や不買運動まで支持する人たちは周囲にはいない。街で聞いても「あのような行為は恥ずかしい」と冷ややかな声が多く聞かれた。 今も日本料理や日本の商品を好む中国人は多い。せめて処理水の海洋モニタリングの結果などは正しく伝わるようになり、中国の人々が冷静に事象を見ることができるようになる時期が早く来ればと切に願っている。