右派政党が過激な「反イスラム」選挙ポスター ドイツ揺るがす難民問題
メルケル氏はどう向き合っていくのか?
2015年にドイツにやってきた難民申請者は約89万人。翌年は28万人にまで減少したが、すでにこの数年で100万人を超える難民申請者がドイツに入国している。ドイツに入国した難民申請者を国別でみると、最も割合が高いのがシリアからで、それにアフガニスタン、イラク、イランが続く。しかし、ドイツにやってきた難民申請者のすべてが完全な難民認定を受けられるわけではなく、シリア人では全体の57パーセント。難民申請者全体の平均でも37パーセントしか難民認定されていないのが現実だ。難民認定されなかった場合でも、ヨーロッパ各国で批准されている「人権と基本的自由の保護のための条約」の存在があるため、一度入国した難民申請者をすぐに国外退去させることは容易ではない。 そのような中、犯罪に関しては全体の中でわずか数にすぎないのだが、ドイツでは難民はテロや凶悪犯罪を引き起こす元凶では、という懸念が多くの市民の間で広がっている。過去数年のテロ事件や無差別殺傷事件でも、難民ではない者の犯行が少なくなかった。昨年12月にベルリンのクリスマス・マーケットで発生したテロ事件の実行犯は、チュニジアから難民申請者としてドイツに入国した男性であったが(難民申請は却下されていた)、地元警察は難民申請者の収容施設として使われているベルリン郊外の旧空港を急襲し、パキスタン人の難民申請者を誤認逮捕している。チュニジア人の実行犯はのちに逃亡先のイタリアで地元警察に射殺されている。 「テロや犯罪が増加するのではないか」といった漠然とした不安が社会を覆い始める中、難民として来た人々にもドイツ社会への適応が求められているが、市民の不安や不満の受け皿となっているAfDの支持率は上昇を続けている。4期目が確実視されているメルケル首相だが、難民問題で足をすくわれる可能性は決して低くはない。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト