右派政党が過激な「反イスラム」選挙ポスター ドイツ揺るがす難民問題
8000万を超える人口を抱え、世界第4位のGDPを誇るドイツ。筆者は8月前半にドイツと周辺国に2週間滞在し、「ヨーロッパ」の枠を超えて存在感を高めるドイツの現在や、ドイツの周辺国で日増しに高まるロシアの脅威に対する警戒感について、多くの市民やジャーナリスト、大学教授らから話を聞いた。ヨーロッパ地域における事実上のリーダーとなったドイツは今後どのような国へと変わっていくのか。また、周辺国やロシア、アメリカといった国々との関係に変化は生じるのか。外交、経済、難民問題、EUにおける立ち位置などから、大国ドイツの現在に目を向けてみる。全5回となる連載の3回目は、ドイツ国内で賛否両論大きく別れ、政権基盤を磐石にしたように思われるメルケル首相のウイークポイントになりかねない難民の受け入れ問題について考える。 【写真】難民問題で揺らぐ「シェンゲン協定」 廃止なら欧州にどんな影響がある?
最新支持率で「ドイツのための選択肢」が躍進
筆者がベルリン市内をビルト紙の政治担当記者が運転する車で移動中、何度か通りに貼られた選挙ポスターに目を奪われた。筆者がベルリン周辺で何度か目にしたポスターは同じもので、ドイツの伝統的な衣装に身を包んだ3人の白人女性がワイングラスを手にした写真には「ブルカ? 我々にはブルグントの血が流れています」というコピーが添えられていた。ブルグントとは2~3世紀にかけてスカンジナビア半島から現在のドイツ移り住んだゲルマン人を意味する言葉で、ブルカにかけてブルグンドという言葉を使ったように思われるが、ドイツ人とイスラム教徒を同一視すべきではないというメッセージがポスターからは伝わってくる。車を運転するビルト紙の記者は、苦笑しながら筆者に言った。 「酷いよな。やり過ぎじゃないかと思うけど、この手のポスターはAfD(ドイツのための選択肢)が難民政策に不満を抱く有権者にアピールする格好のツールとなっていて、別の町ではこれより過激な内容のポスターだって貼られている。ポスターに書かれた言葉を読まなければ、政党のポスターであることすら分からず、よくできたプロパガンダになっている」 彼の言葉が気になったこともあり、数日後にAfDが実際に作成して、ドイツ各地で掲載しているポスターについて調べてみた。妊娠した白人女性が寝転ぶ写真を使ったポスターには、「新しいドイツ人? 我々自身でこれからも作っていきます」というコピー。草むらを歩く子豚の写真に「イスラム? ドイツ料理には合わないでしょう」というコピーを添えたポスターも存在した。どれもイスラム教徒や難民を差別的な言葉で直接攻撃しているわけではないものの、党としての難民やイスラム教徒に対する姿勢をはっきりと表現している。独誌「シュピーゲル」のデジタル版は先月30日、AfDの広報戦略を担当する米企業の存在について報じた。テキサス州オースティンを拠点とするハリス・メディア社は、過去にもイギリス独立党(UKIP)やイスラエルの右派政党リクードのイメージ戦略を担当している。 24日に行われるドイツ総選挙では、メルケル首相が所属するCDU(キリスト教民主同盟)の優勢が伝えられており、17日にビルト紙が発表した支持政党に関する調査では、CDUが36パーセントの支持率を得てトップに立っている。野党の社会民主党は22パーセントの支持率で2位に。ここまでは予想通りの結果と言えるが、ドイツの政界関係者やメディアを驚かせたのが、反EUでありメルケル政権による難民受け入れ政策批判の急先鋒としてドイツ国内外で知られるようになった右派政党AfDの躍進であった。まだ連邦議会に1人の議員も送り込んでいない政党が、他政党をおさえる形で11パーセントの支持率を得たのだ。