近年なぜ注目されるのか? TBSラジオの深夜を担う宮嵜守史が考える音声メディアの魅力
2016年にradikoで「タイムフリー」(過去1週間の番組を無料聴取できる)が開始され、2019年にはタイムフリー聴取数がリアルタイム聴取数を超えた。もちろん今でも運転や家事の最中などにリアルタイムで聴かれることも多いが、特に24時以降の深夜番組は、タイムフリー聴取が可能となったことで聴取層の幅を広げている。 「近年、趣味や娯楽がすごく細分化されて、ラジオはその中にあるのだと思います。ラジオが人々にとってカルチャーのひとつとして捉えられるようになったからこそ、他のメディアで特集が組まれるのではないでしょうか。生活必需品と嗜好品のグラデーションが生まれていることを感じています」
「身近なメディア」ゆえに切り取られ、炎上することも
ラジオはよく「(話者と聞き手の)距離が近いメディア」と言われる。近年では音声配信アプリなども急激に成長し、その特性はラジオに限ったものではないように思える。しかし今でもラジオは一定数が聴いており、中には熱狂的な「リスナー」まで存在する。それはなぜか。 宮嵜が、著書『ラジオじゃないと届かない』の中で、芸人でありラジオパーソナリティーを務めるアルコ&ピースと対談した際に、酒井健太は「YouTubeなどのネットで言う下ネタと、TBSラジオで言う下ネタは価値が違う」と話した。その言葉に宮嵜は腹落ちしたという。 「誰でも気軽に始められる場であれば、ルールが少ないので下ネタも気軽に言えますよね。でも、ラジオは不特定多数に向けて放送することを国から公式に認められ、しっかりとしたルールに基づいて番組が作られている。なんでも流せる場所ではないからこそ、そこで放送される下ネタは、確かに希少性が高いと言えます」
“深夜ラジオノリ”はとっくに通用しない
下ネタに限らず、ラジオはパーソナリティーのプライベートな発表や、他のメディアでは語られない本音が吐露される場でもある。その希少性の高い情報があるゆえに、ラジオは時に都合よく切り取られてネットニュースなどの素材にされる。 切り取られた箇所がSNSなどで拡散され、ひとり歩きした結果、番組を聴取していない人が誤解をし、炎上につながるケースも多い。テレビに比べてパーソナリティーの一人しゃべりの時間が長いことから、非常にセンシティブであり、放送する時点で厳しい倫理観が求められる。 「radikoのタイムフリーで過去の放送の録音を誰でも聴ける状態にしてしまったのだから、“深夜ラジオノリ”なんてものは、とっくの昔に通用しなくなっています。それでも僕は、地上波のラジオ放送の中でできることを模索することにやりがいを感じています。聴かずに炎上ニュースだけを読んで誤解をしている人には、ひとりずつ誤解を解いて回りたいくらいです」