乳がん手術後の「乳房再建」で後悔しないために知っておきたいこと
乳がんで乳房の全摘手術を受けた人に対し、人工乳房による再建が保険適用となったのは2013年。それから10年以上が経つが、乳房再建について「言葉もどんな治療法かも知っていた」という人は16%に過ぎない(乳がん手術後の「アピアランスケア」に関する意識調査)。乳がんは、日本女性がかかる割合がトップのがんであり、罹患率は増加の一途をたどっている。乳房再建についても、男女問わず正しい知識を持っていたい。 ポルノスターまりかさん 米国での乳がん手術を振り返る 両胸全摘でも仕事続け殿堂入り 「日本の乳房再建実施率は12.5%。いまだに低い実施率にショックを受けています」 こう言うのは、人工乳房での再建が保険適用となる前から、複数の大学病院とも連携して乳房再建を行ってきた「ブレストサージャリークリニック」(東京・高輪)の岩平佳子院長だ。 日本の乳房再建率は他国と比較しても非常に低く、例えば米国では40%、韓国では53.4%という実施率だ。低い理由の一つに、乳房再建に熟練した形成外科医が少ないことが挙げられる。 「乳がん手術を行う乳腺外科医には、乳房再建を積極的に提案しない医師もいる。保険適用ということすら知らなかった患者さんもいます。一方で、乳房全摘によるコンプレックスを抱き続けてきた患者さんも多い。私が乳房再建を実施した患者さんの最高齢は91歳。70代で全摘を受けた方で『温泉に入りたい』という思いから再建に至りました。再建に年齢は関係ありません」(岩平院長=以下同) 人工乳房での再建は、まずエキスパンダー(組織拡張器)を手術した胸の下に入れて皮膚と筋肉をのばす。6カ月以上を目安に、エキスパンダーから人工乳房(インプラント)に入れ替える。 「エキスパンダーは、乳がん全摘時に入れる方法(1次2期再建)と、乳がん全摘後に一定期間を置いて入れる方法(2次2期再建)があります。1次2期再建では、術後もエキスパンダーで胸が膨らんでいるので乳房を失ったショックが少ないというメリットがあり、2次2期再建ではどの医療機関で再建を受けるかじっくり吟味できるというメリットがあります」 ■術後何年たってからでも可能 エキスパンダーは36種類、人工乳房は200種類以上あり、その人に合ったものを選ぶには医師の経験値と患者に寄り添う心・態度が必要。さらにエキスパンダーを適切な位置に入れるには高い技術が必要となる。一連の施術は形成外科医が担当するが、前述の通り形成外科医自体が少なく、乳房再建の専門家となるともっと少ない。再建は受けたものの、左右の乳房の大きさや位置が違う……というトラブルも起こっている。 「保険適用となってから経験不足の形成外科医も施術を行うようになり、乳房再建のトラブルが増えたと感じています。やり直しの依頼もある。1次2期再建と2次2期再建はどちらもメリット、デメリットがあります。再建するかしないかも含め、自分が納得いく方法を選ぶべきです」 乳がんの全摘時にエキスパンダーは入れたが、再建は手術を受けた病院とは別のところで受ける人、再建に関して情報収集をしたいと2次2期再建を選ぶ人もいる。2次2期再建は、全摘後から何年経っても可能だ。 近年、人工乳房での再建後、乳がんとは異なるがんを発症するリスクが指摘されている。人工乳房周囲に形成される組織から発生すると考えられているが、はっきりした原因は不明。日本での発症報告は、ひとつは悪性リンパ腫で6例(2023年9月時点)、もうひとつは扁平上皮がんで日本では0例(同年3月時点)。 「人工乳房は10年での入れ替えが推奨されていますが、破損などなければそのままで構いません。マンモグラフィー検査も問題なく受けられます。再建後のがんや破損などのチェックもあり、生涯にわたり定期的なフォローアップが必須です」 岩平院長は、乳房再建を日帰りで行っている。地元に乳房再建にたけた形成外科医がいないからと、飛行機や新幹線で来院する患者もいる。抜糸などはどの医療機関でもできるので、再建を岩平院長のもとで行い、その後のケアは地元の病院で、という形になる。 ※胸を大きくしたいと大きめの人工乳房を選び、それに合わせてがんでない方の胸も豊胸手術を受ける人もいる。全摘側は保険適用、豊胸側は保険適用外となる。