円安下でも基調的な物価上昇率の低下傾向が続く(5月CPI統計):2%の物価目標達成は難しい
コアCPIは2026年に1%を割り込む見通し
政府は、昨年1月に導入した電気・都市ガス料金への補助金制度、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を、今年5月使用分までで終了させた。これは、5月使用分が反映される6月全国消費者物価を前月比0.25%ポイント、6月使用分が反映される7月全国消費者物価を前月比0.25%ポイント、合計で0.49%ポイント押し上げると見込まれる。 ちなみに、電気・都市ガス料金への補助金が終了すれば、2人以上世帯では、電気料金の支払いは年間17,696円(月間1,475円)、都市ガスは年間5,461円(月間455円)増加する計算だ。また、補助金終了による経済への影響を考えると、個人消費は1年間の累積効果で0.25%、GDPは0.09%それぞれ押し下げられると試算される(内閣府、短期日本経済計量モデル・2022年版に基づく)(コラム「政府の電気・ガス支援策は5月までで終了へ:ガソリン補助金は延長と対応が分かれる」、2024年3月28日)。 電気・都市ガス料金の補助金が終了の結果、7月のコアCPIは前年同月比+2.8%まで上昇すると予想する。
ただし、その後のコアCPI上昇率は再び低下傾向を辿る可能性が高いと見ておきたい。2%を割り込むと見込まれる時期は、2025年年央頃と予想する。その後、物価上昇率はさらに緩やかな低下基調を辿り、2026年年末までに1%を割り込むと見ておきたい。 2024年度のコアCPIは+2.5%と3年連続で2%を超えるが、2025年度には+1.6%、2026年度には+0.9%と次第に低下していき、日本銀行の2%の物価目標は達成されないと考える(図表2)。
日本銀行の追加利上げ時期は最短で9月か
5月のCPI統計が、日本銀行の金融政策に直接与える影響は限られるだろう。日本銀行は、今後公表される賃金、物価統計を見極めたうえで、追加利上げの時期を判断する。最終的に2%の物価目標達成できないとしても、1%弱の水準までの短期金利引き上げは、来年にかけて実施されることが見込まれる。 日本銀行は7月の次回金融政策決定会合で、国債買い入れ減額の計画を決める。植田総裁は追加利上げと国債買い入れ策は別であり、国債買い入れ減額の計画を決める7月の会合までに得られる経済、物価データが2%の物価目標達成の確度を高めるものであれば、追加利上げを実施することを示唆し、「場合によっては7月に追加利上げを実施することも十分あり得る」と明言している。この点をことさら強調していることの意図は測りかねる面があることは確かだ。 しかしながら、現状では、追加利上げは最短で9月と見ておきたい。第1に、春闘の賃上げの企業全体への波及度合いと賃金から物価への波及をデータで確認するには、7月時点ではまだ早いと考えられること、第2に、国債買い入れ減額という政策修正と追加利上げを同時に実施することは、金融市場を混乱させるリスクがあること、第3に、政策変更を分けて小出しにすることで、持続的に円安をけん制する効果が期待できること、が主な理由だ。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英