自動車カタログの魅力とは デジタル化で消滅危機…挑発的コピーや時代描写、紙ならではの切り貼り遊びも
時代の刻印としてのカタログ
往年のカタログからは、記憶に残るキャッチコピーも生まれた。参加者からも「隣のクルマが小さく見える」(日産サニー)や「名ばかりのGT達は、道をあける」(トヨタ・セリカ)といった、ライバル車を挑発する名フレーズが飛び交う。 こうした激しい販売競争を繰り広げた高度経済成長期以来の時代背景が色濃く刻まれているのも、自動車カタログの大きな特徴だ。 日産ブルーバードのカタログでは、家族が団地のベランダから車を見送る姿が描かれていた。商用車のカタログでは、トラックの積み荷の描写から当時の世相が読み取れるという。 「モータリゼーション草創期にまだ珍しかった女性ドライバーは、白い手袋にハイヒール姿という華美ないでたちで描かれることが多かった」という指摘もあった。
トヨタも紙カタログ廃止へ
こんなにも自動車ファンに愛されている紙のカタログだが、令和の新車販売の現場からは消えつつある。タブレット端末での見積もりや商品説明が浸透し、印刷・製本のコスト削減にもつながるため、来店客への配布を見合わせるディーラーが増えた。 今年1月にはトヨタ自動車が、2025年1月をもって紙のカタログの制作と印刷を終えると発表。「カーボンニュートラルの取り組みを進めるため」などと理由を説明している。系列ディーラーでは今後、動画による機能説明もできるタブレット端末型の「スマートカタログ」への転換を進めるという。
80年代のカタログと歌謡曲
こうして徐々に紙のカタログが消えていく時勢に、この日集まったファンからは惜しむ声が聞かれた。 「電子書籍と違って、好きな写真の載ったお目当てのページをすぐに開けるのが紙の魅力」とアナログならではの利便性を説く人がいた一方で、「写真だけ見たい人はデジタル、スペックを読み込みたい人は紙、と媒体ごとに役割分担できるのでは。有料でもいいので紙の製本を残してほしい」といった提案もあった。 紙製のカタログならではの遊びを懐かしむ人もいた。 名古屋市北区の男性は、車体写真のモール部分をマジックで黒く塗り潰したり他車種のホイール部分を丸く切り抜いて貼ったりして、塗り絵感覚でドレスアップをシミュレーションするという。「小さい頃、ボディー全体を白黒に塗ってパトカー仕様にして楽しんでいた」という参加者もいた。 ページをめくるとその時代の匂いを感じられるのも、印刷物であるカタログの味わいだ。 80年代後半からのバブル経済期に人気だったトヨタのハイソカーのカタログが好きで収集しているという愛知県岡崎市の40代の男性は、当時のクラウンのカタログを眺めながら80年代の歌謡曲を聴くのが至福のひとときだという。