湯船で交わしてきたいくつもの会話 “驚かなかった”キャプテン継承…誰もが認める“資質”【コラム】
「経験もかなり積んでいますし、その意味でもテツがふさわしい」
サプライズには伏線があった。神戸市西区にあるヴィッセル神戸の練習施設「いぶきの森球技場」のクラブハウス。練習後にたまたま一緒につかった湯船で、神戸のMF山口蛍とDF山川哲史は会話を重ねた。 【写真】「とんでもないの着てる!」 山口蛍が披露した290万円相当の超高級ジャケットコーデ 練習中に左膝に大怪我を負った山口が、復帰まで最大3か月と発表されたのが8月下旬。懸命なリハビリを積んでいたキャプテンに対して、代わって左腕に腕章を巻いていた山川の方から話しかけた。 「僕がゲームキャプテンを任される試合が多くなったなかで、キャプテンとしての立ち居振る舞いや態度、チームが難しいときはどうすればいいのか、というのを僕が興味本位で、そんなに深くない感じで聞いていました」 山口が返した言葉を胸に刻んで次の試合に臨む。試合中や練習中に山川が思うところがあれば、また山口に話を聞きにいく。同じように会話が繰り返されて迎えた12月8日。ホームのノエビアスタジアム神戸で湘南ベルマーレに3-0で快勝した最終節で、神戸は史上6チーム目のJ1リーグ連覇を、天皇杯との2冠で達成した。 試合後に開催されたホーム最終戦セレモニー。目標通りに戦列復帰を果たし、湘南戦でも優勝の瞬間をピッチ上で味わい、キャプテンとしてシャーレを掲げた山口が臨んだスピーチの後半でサプライズは起こった。 「この場で、この瞬間をもちまして、キャプテンの座を降りたいと思います」 こう切り出して感極まったのか――。20秒あまりの沈黙が続き、その間に大きく息を吸っては吐き、いまにもこぼれ落ちそうな涙を必死にこらえた山口が、後任に指名したのが山川だった。 「来シーズンからはテツ(山川の愛称)に引き継いでもらいたいと思います。(中略)みなさんには時に厳しく、時には温かく見守っていただけたらと思います」 セレモニー後に取材に応じた山口は、事前に山川本人には何も伝えていなかったと明かした。 「自分が怪我で離脱している間にチームを外から見ていて、テツは本当によくやっていたと思うし、キャプテンを任せられるんじゃないかと……。任せられるという言い方はちょっとおかしいですけど、テツにもキャプテンの資格があるとずっと思っていたので、それが理由ですね。別に譲るといった意味でもなく、テツも育成出身だし、もともとはそういった選手がキャプテンをやるべきだと思っていたので。経験もかなり積んでいますし、その意味でもテツがふさわしいと思いますし、まったく問題なくできるんじゃないかと思っています」