黒田剛「モチベーションを高く維持し続けなければ叶えられない目標を設定すべき」【町田快進撃の秘密④】
1位を目指さなければ1位にはなれない
太田 黒田さんは去年、(J2リーグ、全20チーム参加で38試合中)勝ち点90、失点30以内という数字を目標として、開幕前、指導の初日から、選手たちに落とし込んでくれました。その数字を目標に設定にした意図は、どんなところにあったのでしょう? 黒田 ゼルビアの2022年のデータを見ると、失点が50だったんですね。非常に言葉が悪いですが、これはあまりにも杜撰というか、なぜこんなにも失点が多かったのかと。それを反省材料として、まず選手たちに自覚してほしかったというのはあります。 攻守はいつも表裏一体ですから、良い守備ができれば必ず良い攻撃に結びつく。攻撃に関しては偶然的要素はありますが、失点に関しては、偶然性は少なくて、必ず自分たちに問題があるわけです。それをきちんと追求することが大事だというのがまずひとつ。 もうひとつは、その前年、アルビレックス新潟がJ2優勝した時の数字を超えたいというのがありました。J2からJ1への昇格は、2位以上であれば達成できるんですが、自分の中では2位以上というのも引っかかっていました。1位を目指さなければ、2位以上はキープできないなって。自信があったわけでもないし、なんの根拠もなかったけれど、まず選手みんなを本気にさせることが、我々(首脳陣)のミッションのひとつでしたからね。ちょっと背伸びしてでも、目標は高く設定すべきだと思っていました。 黒田剛という青森山田で30年間やっていた監督とはいえ、プロ経験のない監督を招聘したというのは、おそらくみんな不安がっていただろうし、多くの反対もあったと聞いていました。その人たちを納得させたかったし安心させたかった。だからこそ、チームが一致団結するには、中途半端な目標では足りなかったというのはあります。 太田 僕がすごく印象的だったのは、黒田さんは、ふだんのミーティングでもコミュニケーションの中でも、チームの目標としてJ1昇格と言う言葉は絶対に使わなかったこと。必ずJ2優勝と言っていました。J1昇格は、J2で2位でも3位でもいけるじゃないですか(注:上位3チームがJ1昇格、3~6位はプレーオフに進出し、優勝したチームがJ1に昇格する)でも、J2の中で優勝するという言葉は、選手たちにものすごく響いた気がします。実際、目標に掲げた数字にほぼ近いところまで上り詰め、J1昇格を果たしました。有言実行する黒田さんの力はすごいと、改めて感じています。 ※5回目に続く。 黒田剛/Go Kuroda 1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業勤務等を経て、1994年、青森山田高校のコーチとなり、翌年教員、そして監督に就任。以降、全国高校サッカー選手権26回連続出場、 同大会を含む計7回の日本一という偉業を達成する。2023年、FC町田ゼルビア社長、藤田晋氏に請われ、同チームの監督に就任。2023シーズンの優勝、J1昇格に導く。 太田宏介/Kosuke Ota 1987年東京都生まれ。ジュニアユース年代をFC町田(現・FC町田ゼルビアジュニアユース)で過ごし、2006年、横浜FCでプロデビュー。その後、オランダのSBVフィテッセやFC東京など国内外のチームを経て、2022年、FC町田ゼルビアに加入。2023年のJ1昇格に貢献し、現役を引退。現在、チームのアンバサダーとして宣伝担当を担い、解説やサッカー教室など幅広く活動する。
TEXT=村上早苗