大阪万博で未来が変わる? 「水素燃料電池船」が海運業界の常識を打破するかもしれない根本理由
水素燃料電池の仕組み
水素燃料電池は、水素と酸素の化学反応を利用して電気を発生させる装置だ。この反応で排出されるのは水だけなので、環境に優しいエネルギー源として注目されている。 従来の燃料は熱を発生させてから発電を行うが、水素燃料電池は直接電気を取り出すため、効率がよいとされている。また、酸素は空気中から取り込めるため、水素が供給される限り、発電を続けることができる。 その仕組みは、水の電気分解を“逆”にしたものだ。 タンク内の水素分子がマイナス電極の触媒で水素原子に分解され、水素原子は水素イオンと電子に分かれる。電子は電極に送られ、その後水素イオンは電解質を通ってプラス電極へ移動する。 プラス電極では酸素分子が外部回路から電子を受け取って酸素イオンになり、電解質を通ってきた水素イオンと結びついて水を作る。このとき、マイナス極から取り出された電子が外部回路を通ってプラス極へ移動し、電流が流れて発電が行われる。 水素燃料電池は小規模でも高い発電効率を実現でき、排出物がクリーンなため、乗用車やバスはもちろん、工場やオフィスビルなどの発電機としても利用され始めている。
技術的課題と水素供給インフラの壁
水素燃料電池船は、従来の内燃機関と比べて、 ・におい ・振動 ・騒音 が少ないため、優れた快適性を提供できる。水素は他の気体と同様に圧縮されてタンクに貯蔵され、必要に応じて使用される。 今回導入される水素燃料電池船も、圧縮水素とリチウムイオンバッテリーを採用することが発表されている。一方、他の水素の貯蔵方法として液化水素もあるが、技術的には難しい。液化水素を使用するには、マイナス253度まで冷却した後、タンクを断熱して低温を保ちながら蒸発を抑える必要があり、さらにコストもかかる。 水素燃料電池船にはいくつかの課題がある。 まず、水素の安全な貯蔵と輸送に関する技術的な問題が挙げられる。水素は非常に軽く、燃焼性が高いため、高圧ガスとして貯蔵・輸送する際には安全対策が欠かせない。また、現在の水素供給インフラは十分に整備されていないため、大規模な商業化にはさらなるインフラの整備が必要だ。さらに、水素燃料電池の開発コストも高いため、技術の進展とコスト削減が今後の課題となる。 現在は、小型の内航旅客船やプレジャーボートを対象に水素燃料船の開発や実証が進んでいる。出力やタンク容量に制約があるため、短距離で小型船の利用に適しており、長距離運航や大出力が求められる大型の外交船では、水素燃料電池の実現は難しいとされている。
水素船が切り開く未来の海運
水素燃料電池船は、海運業界の環境対策として注目されているが、商業化を実現するためには技術革新とインフラ整備が欠かせない。 日本は次世代エネルギーとして水素の活用を積極的に進めており、今後も持続可能なエネルギー社会の実現に向けて世界をリードしていくことが期待されている。 水素燃料電池船の普及は、地球環境への負荷軽減だけでなく、海運業界における新たなビジネスモデルの創出や国際競争力の向上にもつながるだろう。 残り150日を切った大阪・関西万博では、この水素燃料電池船が未来の可能性を感じさせてくれるだろう。
岩城寿也(海事ライター)