FRBのパウエル議長の記者会見-Recalibration
金融政策の運営
今回のFOMCは、FFレートの誘導目標を従来の5.25~5.5%から4.75~5%へと50bp引き下げた。 パウエル議長は、その理由が、インフレが目標に向けて収斂する一方、景気動向に即した労働市場の強さを維持しうるとの自信にあると説明した。併せて、インフレの上方リスクが減退し、雇用の下方リスクが上昇した結果、デュアルマンデートの達成に向けたリスクが概ねバランスしたとの評価を示した。 その上で、パウエル議長は、迅速すぎる利下げがインフレに与える影響と遅すぎる利下げが経済や雇用に与える影響の双方を意識している点を強調した。そして、今後の政策運営については、経済指標や経済・物価の見通しの推移、リスクバランスをもとに各会合で議論して決定する方針を確認した。 一方で、今回改訂されたdot chartでは、2024~26年の各年末の政策金利の見通しが4.4%→3.4%→2.9%とされ、前回(6月)からは各々0.7pp、0.7pp、0.2ppの大幅な下方修正となった。なお、「長期」の政策金利も2.9%と前回(6月)対比で0.1ppのわずかな上方修正となったが、今回の見通しでは2026年末にその水準に達することが見込まれている。 質疑応答では、複数の記者が25bpでなく50bpの利下げとした理由を質し、FOMCメンバーの一部が直前まで25bpを示唆していたことや大統領選挙との関係などが取り上げられた。ちなみに今回の50bp利下げに対しては、ボウマン理事が25bp利下げを主張して反対票を投じた。 パウエル議長は、今回のFOMCでは利下げ幅について大変活発な議論が行われたとした上で、7月会合以降に公表された物価や労働に関する指標を踏まえると50bpの利下げが妥当との結論に達したと説明した。その上で、FRBは米国民のためにデュアルマンデートの達成を目指して政策を運営していることを確認した。 また、今後の利下げ幅は各会合での議論に基づいて判断する方針を確認しつつ、今回のdot chartでは多数のメンバーが2024年中の(25bp単位で見た)複数回の利下げを予想している点にも言及した。さらに、これまでFRBが忍耐強く引き締めを続けたことはインフレ抑制に寄与したが、今後は政策金利を中立水準に向けて下げることが基本シナリオであるとした。 複数の記者からは、FOMCメンバーが予想する利下げペースであっても失業率の上昇が極めて小幅に止まるとの予想は合理的かとの疑問が示された。パウエル議長は、現在の労働市場は実質的に最大雇用の状況にあると指摘し、今後の適切な利下げによって労働市場の安定維持は可能との考えを示唆した。 その上でパウエル議長は、現時点の幅広い経済指標をみる限り、米国経済がリセッションに陥ることを示唆する材料は存在しないと明言し、デュアルマンデートの達成の下で安定成長を維持することが可能との考えを示した。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也