「どん詰まりの映像業者としてのリアリティが…」ドラマ『フィクショナル』がBLとフェイクニュースを描いた理由【映画館上映も決定】
優れた娯楽作品は多面的であるべき
酒井 優れた娯楽作品は多面的であるべきだと思います。ジャンルは「こうあらねばならぬ」という枠ではなく、作る方からすると足掛かりとしてのヒント、大らかな「要素」なのです。僕は作品をどう見てもらいたいかはあまり考えていない。大森さんは出来上がった作品のどこを切り取って商業的に売り出していくのかかなり苦悩されたと思います。 僕は大森さんが「BL」と銘打った理由は、ジャンルという入り口から入ってきた観客に不意打ちで作品の多面性をぶつけようとしたからなのかな、と思っています。ジャンルへの愛は時として一方向だけに深化しすぎ、横の出会いが閉ざされてしまうこともある。そういうときに「意図せず何かに出会う」経験は貴重です。テレビという「不意に自分の知らない何かに出会うことがあるフォーマット」を主戦場とする大森さんらしい切り取り方ですよね。 大森 現代の若い観客は昔以上にジャンルから入ってくる印象があります。「よくわからないものを見にいく」のは一部の好事家だけなのでは、とすら思います。酒井監督の言う通り、私は作品を通して観客を意図していないものに出会わせたかったのかもしれません。
むくろ幽介