「どん詰まりの映像業者としてのリアリティが…」ドラマ『フィクショナル』がBLとフェイクニュースを描いた理由【映画館上映も決定】
「BL」と銘打ち起こした観客と作品の化学反応
――「BL」というジャンル名を掲げているのには、何か理由があるのでしょうか。 酒井 厳密には、ジャンル名として「BL」と掲げたのは作った後でして、その意味で僕には理由はありません。シナリオを作る際には、直接的ではないが、妖しくエロティックなカットを撮りたいとは思っていて、今回は男性による男性への欲求となりました。僕としては男女ペアを描くのと同様、そこに特別な理由はありません。 物語の軸として参考にしたのは1940~50年代に流行したアメリカの犯罪映画のジャンルである「フィルムノワール」です。その要素である「男を破滅させる魔性の女(ファム・ファタール)」を男性にした。そのため、物語自体は、言ってみれば超古典的になっていると思います。 「BL」というジャンル名を掲げる、というのは撮影終了間際に頂いた大森さんからのご提案です。パッケージングに関しては大森さんを全面的に信頼していますので、ただ「お任せします」と。その上で、ビジュアルや予告、コメントといった宣伝物を納品する際には「BL要素、恋愛要素を強めにしてください」との要望を頂き、対応しました。 ―― 一方で男性同士だからこそ浮かび上がる要素もあったように思えます。プライドや見栄が主人公の神保を取り返しのつかないところに運ぶストーリー運びや、男性のコミュニティの問題点などの要素も大変興味深かったです。 酒井 当然ながら神保というキャラクターには、どん詰まりのイチ映像業者としてこの社会を生きる男である僕自身のリアリティが反映されているので、彼が男性でなかったら同じ物語ではなかったでしょう。 ――しかし、そうした男性性がもたらす問題、そして同性愛の要素などが露骨ではない自然なバランスで物語に組み込まれているのが印象的でした。 大森 このナチュラルさを売りにするのも手だったのですが「BL」というジャンルの層もまた厚かったので、そこにも波及できる作品になればいいなと思い、あえて「BL」と銘打ちました。「BL」を入り口に興味を持って見た結果、ジャンルの様式美に収まらないナチュラルでジャンルレスな愛の形を感じてもらえたら嬉しいですね。 ――作品を見てもらうための「パッケージング」の工夫と、魅力的な作品を作ることは近しいようで遠い作業なのかもしれませんね。今回、お二人が分業的な体制をとられた理由が見えてきた気がします。