米国で広がるトランプ氏勝利のダメージと懸念 民主党支持者「もう不安でしょうがない」
しかし、一つ忘れてはならないのは、トランプvs.ハリスの選挙は「男女の闘い」だったという点だ。激戦州の一つ、中西部ウィスコンシン州ジェインズビルの元新聞記者でコラムニストのフランク・シュルツ氏は、ハリス氏に投票した。なぜトランプ氏が勝利したのか尋ねると「ハリス氏は女性だからだ」と指摘する。 「(トランプ氏自身や家族の不倫は何の批判もされないのに)ハリス氏や民主党の女性候補者の異性関係は、共和党から激しく攻撃される。テレビ広告やソーシャルメディアで増幅されて、女性候補者らが“悪魔”に仕立てられていく」(シュルツ氏) 2016年の民主党候補、ヒラリー・クリントン氏に次ぐ2度目の女性候補の敗北。米女性にとって鋼の如く強固な「ガラスの天井」は、今回も現実を見せつけた。 ■ポッドキャストの影響 もう一つ、シュルツ氏が懸念したことは、有権者のメディアとの接し方が変貌したことだ。39年間新聞記者だった彼は、テレビの公共放送を見て、ハリス、トランプ両陣営の主張を聞くようにした。しかし、「家族や友人を見ると、自分とは全く別の世界に生きていた。(保守系テレビの)FOXニュースや、特定のラジオパーソナリティーやポッドキャストだけ聞いていて、この国は二つのバブル(泡)に閉じ込められた二つのグループに分断されていたんだ」と振り返る。 特に投開票日直後から、ポッドキャストの影響力に注目が集まっている。トランプ氏は投開票日の直前、世界最大のポッドキャスター、ジョー・ローガン氏(1450万サブスクライバー)のスタジオでインタビューに応じた。3時間近くに及ぶYouTubeのインタビュービデオは、11月13日現在、約5千万回も再生されている。ローガン氏は、トランプ候補を推薦した。
一方、ハリス氏はローガン氏から声がかかっていたものの、スケジュールを理由に断った。米メディアによると、トランプ氏を先に招いたローガン氏のインタビューに応じることで、リベラル派からの批判を恐れていたとされる。代わりに、伝統的な人気コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」に11月2日に出演、そっくり俳優とわずか90秒のコントを披露した。テレビ局側の配慮もあり、出演したという事実以外は、政治色は皆無だった。コント部分だけのYouTubeビデオは4日までに960万回再生された(ニューズウィークによる)。 しかし、尺も内容も再生回数もローガン・トランプのビデオにははるかに及ばない。かつては、翌日の話題に乗り遅れないように人々が見ていたSNLも年々視聴者数を減らしている。ローガン氏のポッドキャストが、伝統的メディアであるテレビを凌駕したことを示す事実だ。こうした現象は、4年前の大統領選挙ではまだ見られなかった。 日本では米国ほど根づいていないポッドキャストだが、米国では過去十数年ほど、人気が上昇している。米調査会社エディソン・リサーチによると、24年には12歳以上の市民の67%がポッドキャストを聞いた。同様に、47%が毎月、ポッドキャストに接しており、調査の週にポッドキャストを聞いた人は34%。同社は「主要なメディアプラットフォームに成長した」と指摘する。今回の選挙結果を見ると、選挙戦においても重要な役割を果たすことが分かった。おそらく今後、選対本部や広告会社などもポッドキャストをかなり意識するだろう。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク) ※AERA 2024年11月25日号より抜粋
津山恵子