伝統技法「組子」を駆使、東京五輪にちなんだ作品「地球時間」…閉店する大分県日田市の建具職人の集大成
大分県日田市役所のロビーにユニークな形状の木工作品がお目見えし、来庁者の目を引いている。今月末で閉店する市内の老舗建具店の職人、荒川栄太さん(48)が東京五輪にちなんで制作した。コロナ禍に巻き込まれ、一度はあきらめた全国建具展示会への出展を今年の10月に果たし、市の了承を得て持ち込んだ。「一人でも多くの人に作品に込めたメッセージを受け止めてもらいたい」と話している。(秋吉直美) 【写真】大分県の人間国宝・竹工芸の岐部笙芳さん
作品のタイトルは「地球時間」。2020年に予定されていた東京五輪をきっかけに制作を思い立ち、19年に作り始めた。サッカーボールに着想を得た球体の直径は1・2メートル。建具の伝統技法「組子」を駆使して六角形の時計を20個組み合わせ、200を超える参加国・地域の国旗をちりばめた。
今の地球には、戦争や地域紛争といった「止まらなければいけない時間」と、温暖化対策に代表される「動き出さなければいけない時間」がある――。タイトルには荒川さんのそんな思いが込められている。
荒川さんが勤める石松建具店は終戦直後、朝鮮半島から引き揚げてきた石松勇さん(2007年に84歳で死去)が創業した。荒川さんが入社した02年当時は4人の職人が腕を振るっていたが、大手建材メーカーが大量生産するドアや引き戸、サッシなどの既製品に押され、活躍の場は急速に失われていった。
20年以降、職人は荒川さん1人となり、主に営業を担ってきた社長の石松節生さん(75)が体調を崩したこともあって今年の夏、年内いっぱいでの閉店が決まった。
全国建具組合連合会が主催する全国建具展示会は今年で55回目。各地の職人が自信作を持ち寄る晴れ舞台だ。荒川さんにとっても「一度は出したい憧れの舞台」だった。
「地球時間」は五輪イヤーの20年に合わせて9割方できあがっていたが、肝心の五輪がコロナ禍で延期に。展示会も20、21年と中止が続いた。出展のタイミングを逃し、倉庫にしまい込むしかなかった。そのまま数年がたち、長年勤めた建具店の閉店が決まったことで「今年しかない」と再チャレンジを決意した。