「ロシアではお給料が出るけど…」現役バレリーナが厳しい国内事情を告白 老舗バレエ団が動画配信、華やかさの裏の“現実”
「海外、特にロシアではバレエを観るということが文化になっていて、日常なんです。日本人が映画を見るような感覚でバレエを観に行きます。だからわざわざバレリーナ本人がチケットを売らないといけないなんて考えられません。 ロシアのバレエ公演のチケットは、高い席だと1枚5万円くらいするのですが、それもすぐ完売します。チケットを取るのも一苦労です」 5万円が即完売。バレエでなくとも、何かの舞台を見るのに5万円払おうと思ったことが正直言って僕にはない。一体どんな客層が観にきているのだろう。
もはやここまで違うとなると、日本とロシアでは、同じバレエ公演といっても、舞台上でやっていること自体がまったく違うのでは? とさえ思えてくる。 ■「ロシアではお給料が出るけど日本は逆」 チケットノルマだけでも衝撃的な事実ではあったが、さらに驚いたのが「団費」の話だった。 「ロシアではお給料が出るけど、日本では逆。私たち団員がバレエ団に団費を払うんです。習い事の月謝のように額が決まっていて、レッスン費などの諸経費として毎月支払います」
少し冗談っぽく笑いながら話すアリスさん。今はその現状を飲み込んではいるものの、最初はロシアと日本の想像以上の違いに動揺を隠せなかったという。 かく言う僕も次々と出てくるネットにはなかった新情報に脳の整理が追いついていなかった。 団費を払ってバレエを踊る。それはもはやプロと呼べるのか? それはもはや習い事に近いのではないか? そんなことを思いつつも、たとえ完売してもチケット代だけではペイできないバレエ公演の状況を考えると、団費というものが必要だということなのか。そんな風に運営側の立場になって考えてみたりもした。
しかし、やはり国内でも有数の「プロバレエ団」の実情がこうなのだとは、どうしても簡単には納得できなかった。 もちろん公演に出演すればその都度、ダンサーにはギャラが支払われる。しかし普段から団費を払っていることを加味してプラスマイナスで考えれば――。 「もはや習い事ですよね」 再び冗談めかして話すアリスさんの表情には、笑顔とは裏腹に、日本でこれから踊っていくことへの不安が満ちているように見えた。
渡邊 永人 :映像ディレクター