ハッピーの裏にある犠牲を見過ごさない。作家・大田ステファニー歓人が語る、ガザや子どもたちへの連帯
「わからない=つまらない」ってなんて乏しい感想なんだろう
─ここからは大田さんご自身のことについてもさらに深く聞かせてください。そもそも大田さんはなぜ、小説を書こうと思ったのでしょうか? 大田:1人で制作できて、書いてる最中は誰にもクオリティーをコントロールされないからです。でもそれは後から見つけた理由で、最初は消極的な理由で小説に辿り着きました。音楽をやっていたけど自分のせいで関係悪くなったりで続けるのがしんどくなって、映画も学校に通ったけどたくさんの人と一緒に作業するのが鬱陶しくなって……。 学生時代にノリで「小説を書きます」と言ったことがあったので、とりあえず書いてみよっかなって、2020年に書き始めて2作目の『みどりいせき』でデビューできました。だから、ずっと小説家に憧れたってよりか、表現の手法として小説がいまの自分には合っているのかなというのが正直な感覚です。 ─『みどりいせき』ではその文体の独特さにも多くの注目が集まりました。ご自身の小説の特徴や強みは何だと捉えていますか? 大田:小説を書き始める前、小説の書き方に関する本をぱらぱら読んだら、「文体が大切だ」ということはどの本にも書いてて、多くの作家が身を削って考えるところっぽい。でも、うちは楽しかったのでそこまで文体作りには難航しませんでした。楽しんだ時間を独特と言ってもらえるのはありがたいし、特徴と言えるかもしれないですね。まぁ、作品ごとに変わっちゃうと思いますけど。 ─かなりひねって生み出した文体なのかと思っていました。どのように『みどりいせき』の文体を生み出したのでしょうか? 大田:最初は文体は考えずに、箇条書きで情景・アクション・セリフなどだけ書いていくんです。映画で言う「素材」のような感じで、それらを削ったり繋いだりして編集しながらストーリーをつくり上げていく。 文体は、書きたいことを決めて「素材」を書き出してからつくればいいと思っています。同時進行でやるとうちは頭が追いつかない。今回は書きたいテーマにあわせて、コミュニティ内だけで使われる独自の言葉やギャルっぽいノリの語彙を選びました。文体作りは作品や人物にあった語彙のコードを自分の中で確立させるのが手っ取り早い。 あと、文体は、最初に出した素材をまとめる役目もあると捉えています。だから、箇条書き5個分ぐらいの情報が、ワンセンテンスにまとまることもある。情報量が多い文章は基本的には読みにくいけれど、それらをアクロバティックにつなげることができるのは文体があるから。とはいえ、アクロバティックだという自覚はあって、自分でも感性眠ってる時は読みづらいなと思うことはあります(笑)。 ─おっしゃる通り、人によっては「読みにくい」とか「わからない」と感じる人もいそうですよね(笑)。「多くの人に読んでもらえるように」といったことはあまり意識されていませんでしたか? 大田:なかったです。自分も普段本を読んでいるとき、わからないことばっかりなんですよね。「純文学」なんて特に、知らない言葉がいっぱい出てくるから、いちいち立ち止まって調べてみる。 でも、わからないこと自体を悪いことだと思わないんですよね。むしろ、わからない=つまらないとなってしまうのはもったいない。そういう感想を見ると、「なんですべての表現がお前のためにおもてなししてくれると思ってんだよ」と思う(笑)。なんでわからないのか噛み砕く読書こそ面白い体験だと思っています。 それに、『みどりいせき』では桃瀬もいままでと違うコミュニティに入って、全然わからない言葉を使う世界に飛び込みましたよね。だから、読んでいる人も同じような体験をできればいいなって(笑)。