ハッピーの裏にある犠牲を見過ごさない。作家・大田ステファニー歓人が語る、ガザや子どもたちへの連帯
妻との出会いがオープンマインドな自分をつくり上げた
─主人公・桃瀬と、キーパーソンとなる春の人物像はどのようにつくられましたか? 大田:最初は春が主人公だったんですよ。春が聴いてそうな曲やリリックを想像して性格を作った。でも、春は自分からすると芯のある人物なので、今回のテーマだと葛藤なく進んでいってしまいそうだなと思って。それに、強い女性が都合よく周囲に影響与えて活躍する話を男である自分が書くのって、マニックドリームピクシーガールっぽくて居心地悪いなって。だから、桃瀬を主人公にすることにしました。桃瀬は自分に近い部分も多いので、書きながら人物像ができた。 ─具体的に桃瀬と大田さんご自身はどんな部分が似ているのでしょうか? 大田:新しい場所や人混みに行くのダルいとか、人付き合いを面倒くさがっちゃうとか、やりたいことがあるのに眠気が勝っちゃうところとか、いろいろありますよ。 特に大きいのは、初めて会う人やあまり関わったことのない人をすぐに見下してしまうところ。見下しておけば、脅威が消えて自分が傷つかなくて済むから安心なんですよ。自分が傷つかなくていいように、最初から攻撃的な態度をとってしまう。 だけど、そういう態度だと一生人との距離は縮まらない。人生って傷つくことを受け入れた方が豊かになる。だからオープンマインドでいたほうがいいということをうちはここ数年で学んだんですけど、桃瀬も過去のうちのような屈折した態度から抜け出せればいいなみたいな(笑)。 ─大田さん自身が、オープンマインドになれたのはなぜですか? 大田:妻と出会ったことが大きいですね。以前は変に傷つきたくないから、自分のことをあまり人に話さないようにしていたんです。興味ない人を相手に真面目に話すのも面倒で、「仕事何やってんの?」「趣味は?」って聞かれても適当に返事して毎回回答が違うみたいな(笑)。 でも、妻は嘘が大嫌いなので、そういう嘘をつくとすごく気持ち悪がるんですよ。こんなうちでも、やっぱりパートナーには本当の自分を理解されたいし、だんだん嘘をつかなくなりました。そのうち、友達相手でも家族相手でもなるべく嘘をつかずに話せるようになって、素直な気持ちで接したほうがいいじゃんって気づけました。まだ嘘つきですけど。 ─2月には『みどりいせき』単行本が発売されましたが、単行本化にあたって、雑誌掲載時から改訂された部分はありますか。 大田:もともと雑誌では2段組で、単行本になると1段組みになるから、文字組で遊びました。何してもいいよと言ってもらえたので。山登りの場面では視覚的効果で作品を補強して、字を見るだけでも楽しめるような仕組みを考えました。 内容については大きくは変わっていません。でも、最初に書いていた頃から時間は経っているので、いまの自分の視点でも気持ちよく送り出せるように微調整はしています。