〝福の神〟が大いに弾んだ「イッサンサン」行事＝19日夜、伊仙町東犬田布

　【鹿児島県・徳之島】伊仙町東犬田布集落で19日夜、伝統行事の「イッサンサン」があった。子どもたちが〝招福の神〟になぞらえたかかし「イッサンボー」を掲げてはずませながら、伝統の歌・踊りで家々を訪問して豊作を祈願。少子高齢化の波で日頃静かな集落だが、児童生徒たちの歓声が響き活気に包まれた。 　「イッサンサン」は同町東犬田布や木之香（きのこ）集落に伝わる豊作祈願行事。徳之島が琉球王朝支配下にあった約400年前、凶作が数年間続き大飢饉に陥ったため、地区民たちが旧暦8月15日の前の戊申（つちのえさる）の日に始めたとされる。ワラ人形（かかし）「イッサンボー」を掲げて家々を巡り、秋ムチ（餅）をもらいながら豊作を祈願する。 　源流的には他地域に伝わる「アキムチ」「ムチタボレ」「ムチムレ」など呼称の伝統行事と共通。県は今年5月7日、犬田布のイッサンサンを含む「徳之島の餅もらい行事」（計12組織）を県無形民俗文化財に指定した。 　午後5時過ぎ、東犬田布公民館前から子ども会の小学生と中学生の2グループがそれぞれ出発。同時開催している隣の木之香集落は住民に不幸事が生じたため中止。小学生の部には同集落のちびっ子たちも合流し、子ども会育成会の保護者ら含め約40人に膨れ上がった。 　県道沿いの約30軒程度を中心に、太鼓を打ち鳴らしながらイッサンボーを高々と掲げて訪問。訪問先の大人たちは、果報をもたらすイッサンボーの頭にお神酒（みき）を捧げた後、ちびっ子らが担いだテルかごに菓子類などを入れて返礼。〝来訪神〟一行のにぎやかな太鼓の音と歓声が集落中に響きわたり活気に包まれた。 　東犬田布子ども会育成会の富祐司会長（42）は「本来の歌詞の伝承のため犬田布小の家庭教育学級（保護者）でも取り組み始めた。子どもの数は少なくなったが、育成会としてもこのイベントをサポートしたい」。同地の商業・佐藤隆志さん（69）は、店頭のお菓子を両手で〝福の神〟一行に振る舞いながら「少ない児童たちが伝統を受け継いでくれることはありがたい」とえびす顔だった。 　参加児童の1人・柿山洋大郎君（犬田布小4年）は、息を弾ませながら「みんなで一緒に歌って踊り、お菓子もいっぱいもらえてめっちゃ楽しい。これからも参加を続けたい」と目を輝かせていた。