『ライオン・キング:ムファサ』鮮烈でスリリングな“バリー・ジェンキンス映画”としての前日譚
『ライオン・キング:ムファサ』あらすじ
「ずっと“兄弟”でいたかった…」── ディズニー史上最も温かく、切ない“兄弟の絆”の物語。ムファサを偉大な王にした兄弟の絆に隠された、驚くべき“秘密”とは?
超実写版『ライオン・キング』の先にあるもの
※本記事は物語の核心に触れているため、映画未見の方はご注意ください。 はじめに率直なことを書くと、2019年、アニメーション映画『ライオン・キング』(94)の“超実写版”として製作されたリメイク版『ライオン・キング』(19)を観たときはあまり良い印象を受けなかった。オリジナル版を写実的な3DCGに置き換えることに腐心する一方で、手描きのアニメーションがもつ豊かな表現力を超えられていないと感じたからだ。 もっとも、そんな筆者の感想をよそに超実写版『ライオン・キング』は大きな成果をあげた。モーションキャプチャを含む最新のテクノロジーを駆使し、さらに洗練させながら、25年前から愛されてきた名作を新たな世代の観客に届けることに成功したのだ。興行収入は北米で5億4,363万ドル、全世界で16億6,202万ドルと、アニメーション映画として歴代最高の興行成績を樹立。結局のところ超実写なのかアニメーションなのかという議論は横に置くとして、この記録は『インサイド・ヘッド2』(24)の登場まで破られなかった。 すなわち、超実写版『ライオン・キング』におけるディズニーの狙いは十分に達成されたのだ。それでも、シリーズの前日譚を描く新作映画『ライオン・キング:ムファサ』(24)が超実写版で製作されると聞いたときは、いくらなんでも無茶な話のように思われた。監督のバリー・ジェンキンスでさえ、オファーを受けた際は「この企画は無理だ」と感じたという。けれどもジェンキンスは、手元に届いた脚本に魅了されてこの大仕事を引き受けた。 結論をいえば、『ライオン・キング:ムファサ』はその高いハードルをあざやかに飛び越えた。その要因には、ディズニーと『ライオン・キング』という巨大なブランドに挑戦した、ジェンキンスをはじめとする製作陣のクリエイティブな戦略がある。