「自由ってそんなにいいもんじゃない」――30代を迎えた米津玄師の変化
ウルトラマンの「祝福」を受けて
今年4月、映画『シン・ウルトラマン』の主題歌を書き下ろすことが発表された。曲名は「M八七」。映画は、庵野秀明企画・脚本、樋口真嗣監督によって製作されることが、すでに発表されていた。 『シン・ウルトラマン』は、1966~67年にテレビ放送された初代ウルトラマンの世界観とキャラクターを、現代社会に落とし込んでリブートするものになると伝えられた。 主題歌のオファーは「青天の霹靂」だった。 「そもそも主題歌っていうものが存在するとも思っていなかったし、有名なテーマソング(『ウルトラマンの歌』)がある中で、自分がどういうふうに2022年のウルトラマンとして再解釈するかは、非常に難しいものがありました。アイデアの一つとして、初代ウルトラマンのテーマソングをある種オマージュするような形にしようと考えたこともありましたが、自分が呼ばれた理由は、現代の大衆音楽を作る人間であるということが重要なポイントではないかと思ったので、そことは違う全く新しい音楽を作るべきだなと思い、ああいう形になりました」
「M八七」の歌詞には、「今は全てに恐れるな/痛みを知る ただ一人であれ」というフレーズがある。 「痛みって、ものすごく個人的な感覚じゃないですか。ある人にとってはたいしたことのない出来事でも、別の人にとってはシリアスな問題になりうる。そういうものを相対化しようとするな、と。他人と比較して、自分の絶対的な感覚を無駄にしてはならない。痛みを人に明け渡してはいけない。ウルトラマンのように強く、優しく生きていくためには、非常に重要なことなんじゃないかなと思います」 『シン・ウルトラマン』に登場するウルトラマンのデザインは、「成田亨のデザインしたオリジナルへの回帰」をコンセプトに掲げる。成田亨は、ウルトラマンや怪獣をデザインした人物で、美術学校で学んだ気鋭の画家であり、彫刻家である。 「成田さんの中でのウルトラマンとはいったいどういうことなのか、そこから始めるべきだと思ったので、ウルトラマンに限らず、成田さんが描いた絵やデザインからインスピレーションを得ようとしました。成田さんは芸術家としての自負がある人で。芸術的信念と大衆娯楽のはざまで非常に苦しんだ人らしい。そういったことを一つ一つひもといていくうちに、そういう成田さんの葛藤が曲の中にこもっていることが、自分にとっては非常に重要なことだと思えたんです。だから、両方から引っ張られながらも、一本の大きな軸を持ち、そこでちゃんと屹立するような、凛とした曲というイメージで作りました」