朝日新聞の名文記者が「多読」を自慢しない理由【勉強法】
<読む本を変えるには?>
<読む本を変えるための外部プロデューサー> どうやって変えるか。わたしは、もうしつこく、あちこちで言ったり書いたりしているんですけれど、リストです。必読書リスト。リストこそが、〈勉強〉としての読書に必須の道具で す。 どんなリストがいいのか。これも、前著『百冊で耕す』に詳述しているので参考にしてほしいです。いくつかリストをあげているし、わたし自身で作成した、おすすめリストも巻末にあります。それだけに限らず、あらゆるジャンルで必読書、つまり古典を選んでいる先輩読書家はいるものです。自分の気分にあったリストでいい。 「リストは完全制覇しろ」「すべて読め」とまでは言いません。言いませんが、まあ半分くらいは、読んだ、あるいは書店で、図書館で実際に手にした、というところまでは、がまんして付き合います。 リストとは、分かりやすく言うと、音楽でのプロデューサーですね(これで分かりやすくなってるかどうか、ちょっと自信がないですが)。ボブ・ディランでもだれでも、最初、ミュージシャンは自分たちの色を出したい。自分の音を追求する。好きなように歌い、楽器を弾き、ミックスする。しかし、それだけではだめだ、壁にぶち当たる。自分たちでも分かってくるんです。
<なぜプロデューサーが必要?>
<自分を強制的に変えなければ未来はない> 自分以外の才能を、外部から入れなければならない。それが外部プロデューサーです。外から知恵と知見を入れるんです。ディランは、スーパースターになったあとでも、たとえばダニエル・ラノワみたいな大物プロデューサーを起用する。「おれの新作をプロデュースしてくれ」って任せるんです。 ダニエル・ラノワは、当然、ディランの作品はリスペクトしている。いろいろと「こういうふうにするといいんじゃないか」とか、助言するわけです。でもディランはそれを無視したりするらしいんですよね。ダニエル・ラノワ、ものすごい傷ついただろうなって、笑っちゃうんだけど。 まあでも、そういうことですよ。自分を変えるってことです。外部プロデューサーを入れて、自分を強制的に変える。転がる石になる。 そして、必読書リストこそが外部プロデューサーです。自分の知っていることを、年間百冊も読まない。違う世界を知る。自分とは違う、世界のとらえ方を学ぶ。つまり、ベクトルを変えるんです。 ◇ ◇ ◇ ●近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 作家/評論家/百姓/猟師。1963年、東京・渋谷生まれ。1987年、朝日新聞社入社。川崎支局、学芸部、AERA編集部、ニューヨーク支局を経て、九州へ。新聞紙面では、コラム「多事奏論」、地方での米作りや狩猟体験を通じて資本主義や現代社会までを考察する連載「アロハで猟師してみました」を担当する。 著書に『三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾』『百冊で耕す〈自由に、なる〉ための読書術』(CCCメディアハウス)、『アロハで田植え、はじめました』『アロハで猟師、はじめました』(河出書房新社)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』『アメリカが知らないアメリカ 世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、『リアルロック 日本語ROCK小事典』(三一書房)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)他がある。 『ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論』 近藤康太郎[著] CCCメディアハウス[刊]
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部