立川志のぽんさん、春風亭昇咲さん ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】立川志のぽん、春風亭昇咲の写真
「落語に魅せられた男」──立川志のぽん
今月、満席の渋谷伝承ホールで開催した『立川志のぽん 渋谷之大風呂敷“けじめの会”』の空間には“落語家立川志のぽん”の現在地と未来への道筋が明瞭に姿を現していた。当初は今年1月に内定していた真打昇進の御披露目の会になる筈だった。しかしその後昇進に向けた迷いや重圧、落語への取り組み方の不備などにより内定は白紙に戻ってしまう。周囲の人に対する申し訳なさ、自分自身への情けなさ、当初は様々な葛藤が渦巻き気持ちは停滞するばかりだった。そんな八方塞がりの心を救ったのはこれまでどんな時も手離すことがなかった純粋な想い“大好きな落語が出来る喜び”だった。失意から立ち上がった志のぽんさんは毎月連続で独演会を行うなど以前にも増して積極的に活動を続け今回の公演も応援し支えてくれるお客さまと師匠の前でキチンとけじめをつけるためにキャンセルすることなく開催に至った。 高校時代に落語にハマリ、美術系の国立大学の大学院卒業まで落語研究会に所属、在学中は内面に浮かぶ発想を手作業で緻密に刻んでいく彫刻と所作と語りで想像させる落語、ベクトルの違う二つの表現に没頭する。卒業後二年半の会社員生活を送りながらプロになることを模索している時に学生時代から目標に掲げる“幾つもの異なる表現の統合”をまさに落語に於いて実現する“志の輔らくご”を目の当たりにする。何十年にわたりその圧倒的な世界観で他ジャンルに引けを取らない落語のエンターテインメント力を見せつけてきた立川志の輔師匠に入門することを決意する。2005年1月、28歳で入門、2013年4月の二ツ目昇進までの7年間、師匠の一挙手一投足に目を凝らしながら修業の日々を送った。変化する時代や世相との親和性に富んだまくらと演目選び、日常でのアンテナの張り方と膨大な知識量、お客さまのためにその日のベストを尽くす姿勢を間近で吸収していった。 芸術家肌で論理的、落語家としての美学と表現に対する拘りが強い反面、自分にはない環境に身を置くことでより良く変化しようとする客観的視点と柔軟性も併せ持っている。「こちらが投げたボールがお客さまの頭の中に波紋のように拡がりやがて笑いというひとつの塊になれる」ところが落語の魅力だと語る志のぽんさんの高座はいつでも幸福感に満たされている。その姿を先述の会で志の輔師匠は「ここにも落語に魅せられた男がいる」と言った。近い将来訪れる真打ち昇進に向けその歩みはもう止まらない。