「中国EV包囲網」の舞台裏を徹底取材。米・EUと足並み揃え、カナダも関税100%に!
北米とEUという二大市場から、事実上のブロックを受けた中国EV。今後の展開が気になるが、そもそも欧米では昨年からEV販売が急失速している。 その証拠に米が誇るEV専売のテスラは2四半期連続で前年割れ。"テスラの再来"と呼ばれてきた米EVの新興メーカーも相次いで経営破綻。米フォード・モーター、米ゼネラル・モーターズ、独フォルクスワーゲンなど欧米の主要メーカーもEV戦略の見直しを発表済みだ。 「フォードは市場の需要が減速していることを理由に挙げ、8月21日、27年に発売予定だった新型EVの開発を中止し、米市場で販売好調なハイブリッドに切り替えると宣言しました」(自動車誌の元幹部) ハイブリッド車の販売が活況な欧州市場を意識した戦略発表も飛び出している。 「7月9日に、米自動車ブランドのクライスラーを傘下に持つ、新車販売台数世界4位の欧州自動車大手のステランティスがグループ全体で今年30のハイブリッドモデルを欧州市場に導入すると電撃発表して話題を呼びました。ちなみに26年までに6モデルを追加するそうです」 つまり、これまでEVシフトを声高に叫んできた欧米だったが、ここにきてハイブリッドに大きくかじを切り始めたのだ。そんな中、中国EVは制裁関税にどう対処するのか? 「BYDはハンガリーなどに新工場を建設予定です。今回の関税措置を踏まえ、現地生産に切り替えるでしょう」 現地生産は巨大な投資や雇用を生むため、単に輸出するよりも、現地での影響力は強さを増す。すでに欧州には中国の電池メーカーなどが進出しているのも大きいようだ。 「ほかの中国EVメーカーも制裁関税を回避すべく、欧米などに製造工場建設の道を模索しているようです。 ただ、日本的に笑えないのはドル箱市場の東南アジアへの進出です。すでにBYDは7月に東南アジアの足場となるタイ工場で生産を開始。ほかの中国メーカーも続々と上陸し、激安EVを武器に、日本車勢からシェアを奪っています。逆風が吹き荒れる欧米のEV市場とは異なり、東南アジアではEV需要が高まっています。東南アジアは日本車の本丸なので早急に手を打つべきかと......」 とはいえ、少し前まで、メディアやSNSには《EVシフトに日本は乗り遅れた》とか《ハイブリッドはオワコン》というようなワードが躍っていた。ところが、リアルワールドではEVは頭打ち、オワコン扱いされてきたハイブリッドは欧米で大躍進だ。 「実は今年5月に、フォードのジム・ファーリーCEOがハイブリッド車はEVへ進むつなぎの技術ではないと語って話題になりました」(米自動車メーカー関係者) 要するに自動車業界のトレンドは刻々と変わるという話だ。今後、電動化への移行は不可逆的だが、もはや"脱炭素カーはEVのみ"という状況ではない。加えて脱炭素カーの販売バトルは、いかに市場の動向にマッチングできるかだ。中国EV勢が生き馬の目を抜く自動車業界で、覇権を握れるか観測を続けたい。 取材・文・撮影/週プレ自動車班 写真/時事通信社