13万年前には到達?新世界アメリカ大陸人類史が一気に遡った形跡発見の報告
年代における二つの異なる仮説
今回の研究は、アメリカ大陸に人類が初めて登場した時期において、二つの大きく異なる「仮説」を我々に投げかけてくれているようだ。その真相はそれぞれの研究者や読者の方に、とりあえずここではゆだねておきたい。サイエンスにおける仮説とは、その真相がはっきり分からないケースにおいて、とりあえず(便宜上)用いられる説明付けのようなものだ。もしはっきりした直接の証拠が手元にあるなら、こうした事柄は単に「事実」ということになるはずだ。どちらの仮説を支持するかは、個人的な好みや直感(?)だけでなく、どのようなデータや手法・思考法を用いているかに注意を払う必要もあるだろう。 さてどうして人類のアメリカ大陸登場の具体的な年代が、サイエンス的に重要なのだろうか? まず「どのタイプの人類がやってきたのか」という問いかけがある。1万5000年前ならば、ホモ・サピエンス一種しか存在していなかった。しかし13万年前となると話はかなり複雑になる。ネアンデルタール人など他のホモ属の種が知られているからだ。 もしアメリカの先住民が10万年以上の永きに渡って北米大陸で孤立していたら、いくらか遺伝子的にオリジナルな特徴が現れているのかもしれない。例えば新生代を通してオーストラリア大陸で独特の多様性を遂げたカンガルーなど有袋類の仲間のように。 そしてもう一つ私が(個人的に興味深いのは)、「どうしてわざわざ、はるか彼方にあるアメリカ大陸までやってくる必要があったのか?」という問いかけだ。環境の激変や他者(及び他種)との競争などによって止むを得ず必要に迫られて、追い出されてきたのだろうか? それとも偶然のなせる業だったのだろうか? 「約1万5000年前のアメリカ移住仮説」が(現在に至るまで)広く支持され続けている大きな理由の一つに、その当時の気候条件が挙げられる。その当時は氷河期の真っ只中。シベリアの北東部とアラスカは陸続きになっており、人類は(他の大型哺乳類とともに)ユーラシア大陸から歩いて北アメリカ大陸へやって来ることができた。(注:大量の海洋などの液体の水は、セオリーとして固体の氷として存在していたはずだ。そのため海岸線の後退がおこり、より多くの陸地面積が現在と比べてあったはずだ。) しかし13万年前とはかなり大胆な数値だ。この時期は氷河期の期間中、比較的温暖だったと考えられる()。シベリアからアラスカにかけて直接歩いて渡ってくることが「できなかった」可能性が高い。 太平洋諸島からボートなどを使って、この時期にアメリカ大陸へやって来た可能性はあるかもしれない。しかし具体的に、この仮説を裏づける直接の証拠 ── 例えばボートの破片や太平洋岸における村落の跡地など ── は、今のところ知られていないようだ。 初期人類のアメリカ大陸への出現は、現在の人類の起源を探る上で鍵となる情報がそこにあるのかもしれない。 おそらくこれから更なる証拠探しがはじまることだろう。もしかしてこの約10万年に及ぶ空白期間の年代から、新たなアメリカ大陸における人類の遺物が見つかるかもしれない。(見つからないかもしれない。)更なる研究の成果に期待したい。