13万年前には到達?新世界アメリカ大陸人類史が一気に遡った形跡発見の報告
斬新な130,000年前というデータの意義
さてゴールデンウィークがはじまる少し前。学術雑誌「NATURE」にアメリカ大陸における最古の人類の記録に関し、一つの非常に興味深い論文が発表された。Holen等(2017)は、なんと「130,700±940年前」という、(それまでの常識を覆すような)年代をレポートしているのだ。 Holen SR, Demere TA, Fisher DC, Fullagar R, Paces JB, Jefferson GT, Beeton JM, Cerutti RA, Rountrey AN, Vescera L, Holen KA (2017) A 130,000-year-old archaeological site in southern California, USA. Nature 544 (7651):479-483. doi:10.1038/nature22065 念のために今一度、ここで断っておきたい。1万3千年前ではなく、13万年前だ。(先述したように)これまでに広く考えられていた時代より桁(けた)が一つ違う。ゼロが一つ多いのだ。その差はざっと10万年以上になる。 データは現在のカリフォルニア州南部(サンディエゴ市郊外)にあるナウマンゾウの骨格現場からのものだ。ウランートリウム(U/Th)法に基づく放射年代測定によって、地質年代が測定されているため、誤差は少ないと考えられる。 この現場からナウマンゾウの部分骨格が発見された。研究チームによると、たくさんの骨に砕かれた(ような)形跡が見られるそうだ。更に興味深いことに大きな岩石のかたまりも、このナウマンゾウ化石現場から見つかっている。(こうした大きな岩石は、当時の堆積環境の様子から推定すると、かなり場違いで、人為的に運ばれてきた可能性が高いということだ。)そして岩石のサイズなどから、今回の研究チームに導き出された結論は、「太古の人類がこのナウマンゾウをくぼ地に追い込み、岩石を投げつけて殺した」というエキサイティングなストーリーだ。 ちなみに骨の表面には多数の細かな引っかき傷のような跡も確認されている。太古の人類が「石器を使って肉を骨からそぎ落とした」証拠だという結論も下されている。 果たしてこうした大小様々な岩石は洪水などによって、ゾウの死体とともに運ばれてきた可能性はなかっただろうか? このゾウの死と直接、関連性がなかった可能性はないだろうか? 石器ではなく、ただの岩石のかたまりだった可能性はないだろうか? 骨に見られる傷は、例えばオオカミ等によって食べられた痕ではないのか? 今回の研究の斬新さからして、(私が推測するに)こうした反論や疑問はすぐに周りの研究者から投げかけられることだろう。 更に忘れてはならない重要な事実がある。人類の遺物は1万5千年前くらいにならないと、南北アメリカ大陸からは(今のところ)ほとんど知られていない。今回のナウマンゾウのケースから、その後10万年以上にわたる間、人類の住んでいた記録(特に直接のデータ)において、大きな空白期間が存在する。これはどう説明がつくのだろうか? 何かの理由により「化石記録が見つからない」と説明するよりは、今回の発見は「間違いだ」と考えるほうがいろいろ研究者にとって辻褄(つじつま)が合いやすいはずだ。実際私の知る限り、あちこちの研究者から、すでに反対意見が出されている。(興味のある方は、こちらのNatureによって制作されたビデオを参照されたし。)