なぜアメリカのレンタカー会社はテスラを手放したのか?
昨年12月、米レンタカー大手・ハーツ(Hertz)がBEV(バッテリー電気自動車)2万台を売却して順次ICV(内燃機関搭載車)に切り替えることを運輸当局に通知し、売却を開始した。2万台は同社が米国内に保有する同レンタカーの11%に当たる。そのうちの約8割、1万6000台がテスラだった。この発表から4カ月ほどを経て、すでに半数が処分されたという。なぜ、BEVはレンタカーから退場なのだろうか。 TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
レンタカー市場からBEVが少しずつ「退場」している
ハーツ・グローバル・ホールディングスは「BEVはICVに比べて修理費が高く、会社の収益に悪影響を及ぼしている」とコメントした。昨年12月の段階でハーツは、約6万台のBEVを保有していた。そのなかの2万台程度をまず売却すると発表した。新たにBEVを購入するかどうかは明らかにしていないが、追加のBEV放出の可能性は否定していない。 このハーツの発表を受けて欧州最大のレンタル会社であるシクストも「テスラをすべて売却する」と発表した。この流れはあちこちに飛び火し、レンタカー市場からBEVが少しずつ「退場」しているというのが現在の状況だ。 通常、レンタカー会社は一般ユーザーよりも安くクルマを仕入れている。同じ仕様をまとまった台数で発注し購入するためだ。OEM(自動車メーカー)にとっては「不人気車種の引き取り先」という一面もある。いわば、持ちつ持たれつ、の関係である。 バイデン政権がBEV普及を掲げた2022年、ハーツはテスラから1年以内に10万台、ポールスター(元はボルボのハイパフォーマンスおよびツーリングカーレース車両部門で現在は吉利ホールディングス傘下)からは5年間で6万5000台という大量のBEVを購入する計画を発表していた。 BEVメーカー側も、BEVをまずレンタカーで使ってもらうことで「興味を持つ人が増えるだろう」と考えていた。ハーツはBMW「i3」やGMシボレー「ボルト」なども発売直後から購入しレンタルに使っていた。これらは少なからずBEVの「お試し体験」の場を提供した。 しかし、BEVがレンタカー会社の利益を削り取った。修理費の高さのほか、稼働率も予想を下回ったという。ハーツの場合は2023年第4四半期の決算で「明らかなBEV由来の利益減」となり、株価は1年間で32%下落した。 日本のレンタカー会社に訊くと「電池残量によってはその日の行動が制限されてしまうBEVは、思ったほど人気が出なかった」という。とくに観光地では不評だった。「家族が望む観光スポットにBEVで出かけるにはバッテリー残量が足りない」「しかし充電スポットの場所がわからないし、先客がいたら充電を待たなければならない」という理由が多いと聞いた。 欧米では企業が役職従業員に貸し与える「カンパニーカー」でもBEVが嫌われている。カンパニーカーは通常、リース契約であり、契約期間をあらかじめ決めて「クルマを貸し出す」という契約だ。 リース契約にはオープンエンドとクローズドエンドの2種類がある。オープンエンド方式は新車の「残価設定ローン」に似ている。 たとえば500万円のクルマを5年後に残価200万円の設定で60か月分のリース契約とする場合、リース会社は「5年後の残存価格は200万円です」と借り手に通知し、その残存価格を差し引いた(500-200=300万円)金額に「リース料率」を掛けた金額を60等分する。リース料率1.3なら300×1.3=390を60等分した6万5000円が月額リース料になる。 60カ月後にリース車両を返却し、残存価格(中古車としての下取り価格)が当初予定どおり200万円なら、そのままリース契約終了。もし残価が200万円を下回っていたら、その差額を借り手(リース契約者)が支払わなければならない。 いっぽう、クローズドエンド方式は、5年後の残存価格は貸し手であるリース会社が設定し、借り手には開示しない。その代わりリース契約終了時にそのクルマの下取り相場がどうであろうと、貸し手は借り手にいっさい請求しない。リース期間が終了したら、借り手は車両を返却して終わり、である。 メンテナンス付きリースの場合は、リース料率以外にリース期間中の整備費用や消耗品費を上乗せする。この契約はオープンエンドでもクローズドエンドでも変わらない。