「性器を噛みちぎる」チンパンジーと「無害な」人間…「人間家畜化理論」が説明する、ヤバすぎるその理由
「人間の家畜化」の考えの歴史
自然な環境でチンパンジーの集団同士が偶然出会ったときには、ほぼ必ず暴力的な衝突が起こり、多くの場面で死者が出る。一方、チンパンジーを前にした人間は、オオカミの前に立つゴールデン・レトリーバーのようなものだ。このたとえは半分冗談ではあるが、人間を特殊な形で家畜化された動物とみなす考え方は以前から存在した。 すでにチャールズ・ダーウィンですらそう考えていたが、人間が家畜化した原因が特定できなかったため、最終的には放棄した。ここで説明として神の介入を用いるのは、ダーウィンには科学的ではないと思えた。同じように、人間ではない高等な種が人間を家畜化したという説も、ばかばかしく思えた。人間こそが人間を飼いならしたという考えも、正しいとは思えなかった。だからダーウィンは、家畜化という考えを捨てたのだ。 最初に家畜化の考えを披露したのは、ドイツ人人類学者のヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハだ。ブルーメンバッハは1775年の論文「Über die natürlichen Verschiedenheiten im Menschengeschlechte(人類における自然な相違について)」にはじまる一連の著作で、人間の特徴は多くの点で家畜化された動物のそれに似ていると指摘した。進化にまつわる仮説はほぼいつも同じ運命をたどるのだが、人間の家畜化という考えもまた、人種差別を正当化するために悪用された。 その考えに従えば、白色人種は高度に家畜化しているため、ほかの人種よりも優れているのだそうだ。ただし、この説はすぐに覆され、ブルーメンバッハ自身も否定した。 20世紀に入り、家畜化症候群は数十年にわたって系統的に研究された。そのため、症候群に含まれる症状やその強さ、発症の原因となる遺伝プロセスなどはすでに詳しくわかっている。具体的にどのような仕組みが働いて人間が平和を好む方向に進化したのかも、明らかになった。
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