【試乗速報/動画付き】フェラーリ12チリンドリにエンジン総編集長のムラカミが試乗 世界で唯一残った自然吸気12気筒エンジンを積むスーパーFR
830馬力のFRを雨のルクセンブルクでテストした!
次々にマルチシリンダーの内燃エンジンが姿を消すなか、驚くべきことに過給機さえも使わない自然吸気式のV型12気筒エンジンを搭載して登場したフェラーリ12チリンドリ。ルクセンブルクで行われたその国際試乗会にエンジン総編集長のムラカミが参加した。はたして最新の12気筒FRは、どんなフェラーリに仕上がっていたのか? 【写真54枚】世界で唯一残った自然吸気12気筒エンジンを積むフェラーリ12チリンドリの詳しい写真はこちら ◆国際試乗会をルクセンブルクで行う意味とは? フェラーリの新しいFRスーパースポーツ、12(ドーディチ)チリンドリの国際試乗会は、ベネルクス3国のひとつ、ルクセンブルクで開かれた。これまでにルクセンブルクで国際試乗会が開かれたという例は他のメーカーを含めて聞いたとがない。もちろん、フェラーリが使うのも初めてだし、それどころか、12気筒のFRクーペ・モデルの試乗会が、本拠地であるイタリアのマラネロ以外で開かれるのも、私が知る限りこれが初めてだと思う。 というのも、フェラーリはライフスタイル色の強いオープンやGTカーを除くピュア・スポーツ・モデルの試乗会は必ずマラネロを舞台に開催し、一般道のほかに自社で所有するフィオラノのテスト・コースでの走行もプログラムに含めるというのが、長年の不文律になっていたからだ。先代12気筒FRの812スーパーファストの時にもフィオラノを走ったのを鮮明に覚えている。 それがどうして今回はルクセンブルクになったのか。広報担当者が挙げた理由は3つあった。まず、ITや金融で成功したお金持ちの暮らす国というルクセンブルクの持つイメージが、この12チリンドリが狙っているイメージにマッチしていること。次に、美しい風景に加えて、このクルマで走るのに最適なワインディングロードを含めた素晴しい道があること。そして最後に、今回新たに専用タイヤとして認証されたグッドイヤーのテスト・コースがあることで、試乗の最後に、そこで専用開発されたイーグルF1スーパースポーツを試すことになっていた。 確かに、この3つの理由はその通りなのだろう。けれども、私はもっと根本的な理由が、今回マラネロを離れた背景にはあると思うのだ。それは、この12チリンドリの位置付けが、これまでの812までの12気筒FRモデルがそうであった究極のピュア・スーパースポーツから、よりラグジュアリー志向の強いスーパースポーツGTへと変わったことである。実際、今年4月にマラネロで開かれた内覧会のプレゼンで、それを裏付ける説明があった。フェラーリの新たなエクストリーム・パフォーマンス・モデルはSF90であり、これはパイロット・モデルと位置付けられ、それに次ぐのが296になる。一方、それとは逆の方向にある、ラグジュアリー要素を持ったスポーツカー・ドライバー・モデルの筆頭がローマであり、それに次ぐのがプロサングエ。そして、この12チリンドリはと言えば、ちょうどその中間。パフォーマンスとコンフォートのパーフェクト・バランスを狙ったモデルであることを明言していたのだ。 果たして、これまでの12気筒FRモデルとはどのように違った走りを見せてくれるのだろうか。興味津々、試乗に臨むことになったのである。 ◆なんという扱いやすさ! 用意された試乗車はすべて同じ、ジャッロ・モンテカルロと呼ばれるボディ・カラーを持っていた。モンテカルロの黄色、とは名前も洒落ているけれど、フェラーリと言えばロッソ=赤というイメージとは異なるいかにも大人のラグジュアリー・スーパースポーツ然としていて、私はいっぺんに惚れ込んでしまった。 そして、ドアを開けると目に飛び込んできたのはヴェルデ・ヴェナリアの美しい薄緑色のシートだ。ヴェナリアというのは、緑の庭園で知られるイタリアの街の名前なのだという。これまたオシャレだ。コクピット・ドリルを受けて驚いたのは、この試乗車にはオプションのマッサージ機能までこの美しいシートに内蔵されていたことだ。思い切りスポーティなバケット・シートにマッサージ機能という組み合わせが、なるほどパフォーマンスとコンフォートの融合とはこのことか、と思わず頷いてしまった。 ステアリング・ホイールにあるスタート・ボタンを押してエンジンに火を入れる。今や世界唯一となった自然吸気V12気筒エンジンが、ブォォォーンと軽い雄叫びを上げて目覚めるのを聞いただけで、もうなんだか大きな感動が込み上げてくる。しかし、油断してはいけない。なにしろ、このエンジンは830ps、678Nmのパワー&トルクを持ち、最高許容回転数はなんと9500rpmという化け物なのだ。ましてやこの日、運の悪いことに朝から雨が降っていて、路面がウェット状態だった。マネッティーノのダイヤルを操作してドライビング・モードをウェットにセットし、慎重に右足に力を入れてクルマを発進させた。 するとどうだろう。もう驚くくらいスムーズに、スルスルと、このスーパースポーツGTは走り出したのである。なんという扱いやすさか。あまりにも身構えていたので、逆に拍子抜けするくらいに乗りやすいではないか。そして、街を抜け、制限速度90km/hの一般道(日本との何たる違いか!)に入ったあたりで私は悟ったのだ。フェラーリは完全に変貌を遂げたのだ、と。 この際だから小声で告白してしまおう。かつて雨の日にフェラーリの12気筒モデルに乗ることほど怖いことはなかった。たとえば、599に雨の首都高速で乗った時など、いつお尻が滑り出すかとビクビクしながら、右足を硬直させていたものだ。ステアリングにしてもペダルにしても、とにかく操作に対するゲインが急で大きいものだから、あくまで慎重かつ繊細に扱ってやらなければ思ったように動いてはくれない感じがして、神経を尖らせて乗っていた。さすがに812ともなると、そういう怖さはもう過去のものとなっていたが、それでも、操作に対するゲインの大きさはそれなりに残っていて、山道やテスト・コースを飛ばす時には、繊細な操作が求められることに変わりはなかった。それがどうだろう。この12チリンドリの乗りやすさときたら、まるでモンスターが突如、正義の味方に変身したみたいな変わりようではないか。正直に言って、こんなにリラックスした気分でウェットの山道を気持ち良く飛ばせるフェラーリ12気筒モデルは初めてだ。 いや、FRではないけれど、もう1台だけあった。昨年乗ったプロサングエがやはり、驚くくらいにスムーズで、乗りやすいクルマだった。切ったら切っただけ曲がり、踏んだら踏んだだけスピードを増し、止まる。すべての操作に対してクルマがリニアに反応してくれるから、常に安心感があるし、人馬一体感も得られる。その特質は12チリンドリもプロサングエもまったく同じである。違いのひとつは、プロサングエがフェラーリ・アクティブ・サスペンション・テクノロジー(FAST)と呼ばれる最新の電気モーターを使った高価な足回りを持っていたのに対し、12チリンドリは従来型のマグネライド・セミアクティブ・サスペンションの進化版を使っている点だが、もちろんスポーツカーらしい硬さは持っているものの、ウェット・モードはもちろんスポーツ・モードで乗っても決して跳ねるような不快なものではなく、GTカーとして十分に長距離を快適に過ごせると思った。 思えば、かつてエンツォ・フェラーリが登場した時、その後に出た各モデルが急に大きな進化を遂げたように感じたことがある。エポック・メイキングなクルマを開発すると、それが他のモデルにも波及して良い効果を及ぼすことがあるのだろう。プロサングエの登場でフェラーリは大きく変わった気がするのだ。 ◆そして空は晴れた! 路面はドライとなり、自然吸気12気筒を思う存分に解き放つときがきた。この続きは【後篇】で! 文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=フェラーリS.p.A ■フェラーリ12チリンドリ 駆動方式 フロント・ミドシップ・縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4733×2176×1292mm ホイールベース 2700mm 車両重量(車検証) 1560kg エンジン形式 直噴V型12気筒DOHC 排気量 6496cc ボア×ストローク 94.0×78.0mm 最高出力 830ps/7750rpm 最大トルク 678Nm/7250rpm トランスミッション デュアルクラッチ式8段自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル ブレーキ(前後) 通気冷却式カーボンセラミック・ディスク タイヤ (前)275/35ZR21、(後)360/30ZR21 車両本体価格(税込み) 5674万円 (ENGINE Webオリジナル)
ENGINE編集部
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