平和問うファンタジー映画「惑星ラブソング」…時川英之監督、戦争や核「怖くない表現で」
広島を舞台にした映画を手がけてきた時川英之監督(52)が、初めて「平和」をテーマにした映画「惑星ラブソング」を撮った。広島の若者と米国人観光客が、過去や現在が交錯する不思議な出来事が起こる中で、平和な未来を考えるというファンタジー。時川監督は「戦争や原爆を、誰が見ても怖くない表現で描く映画に挑戦した」と話す。22日に開幕する広島国際映画祭で上映される。(中安瞳)
きょうから広島国際映画祭
時川監督は広島市西区出身。小学生の頃から映画好きで、「自分も人を感動させたい」と思い立ち、お年玉をためてビデオカメラを購入した。同級生とカンフー映画をまねて撮影、編集した映像を当時の担任教諭に見せたところ、面白がって給食の時間や遠足のバスで流してくれた。「あれがなかったら映画監督になっていなかったかも」
明治大に進み、進路に迷った時期もあったが、留学先のカナダのバンクーバー・フィルム・スクールで「やっぱり映画が大好き」と感じ、憧れの世界に飛び込んだ。これまでに、プロ野球・広島東洋カープ草創期の逸話を手本にして映画館が活気を取り戻す物語「鯉のはなシアター」や、実在した老舗劇場の閉館までを描いた「シネマの天使」など4作品を制作。様々な国際映画祭で「監督賞」などに輝いた。
広島ゆかりの作品にこだわり、2016年には平和教材のDVD作成にも携わったが、肝心の映画で平和を描くことは「荷が重い」と避けてきた。小学校の授業やテレビのドキュメンタリー番組で見た戦争映像が、あまりに悲惨な光景で苦手だった。だが映画館に来てくれた被爆者の人たちにかけられた「今度は平和の映画を作ってよ」という言葉を思い出し、来年の被爆80年を前に、テーマとして向き合うと決心した。
考えたのは、「自分が伝えられる平和とは何か」。ショックな映像に目を向けることがつらいのは、子どもだけでなく、原爆が身近でない大人も同じだとわかっている。だから「誰が見ても平和を感じられる映画」を目指し、たどり着いたのがファンタジーだった。期せずして日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞で、関心が高まっているタイミングでの公開となり、「ぜひ国内外の多くの人に見てほしい」と願う。