ドンキ流、客の心つかむ値下げ 特売品はパート店員が決める
顧客目線の自由な意見を集めるため、投票は義務化せず選挙の形式は各店舗に委ねる。対象商品の値札には「決断」と書いた紙を掲げる店長の写真を「今まで申し訳ありませんでした」といったコメント付きで添えるなど、おちゃめな演出も心掛けた。アピタ千代田橋店はスマートフォンやパソコンを通じた投票のほか、投票箱に票を投じる方式も取り入れて、従業員が楽しく参加できるようにした。 チェーン店の値付けは本部や店長の指示に基づくことが一般的で、店舗の従業員による投票で決める手法は珍しい。通常の小売企業の本部からすれば、店舗ごとに値下げの対象商品や値引き率を分けるのは手間がかかる。従業員側にも販売データを共有していないことが多く、選挙で販促効果を生み出しづらい面もある。 ●浸透したドンキ流の権限委譲 ユニーが価格総選挙をスムーズに導入できたのは、本部から店舗スタッフへの権限委譲を進めてきたからだ。売り場を担当するパートに商品の販売データを共有しており、仕入れ先との商品の原価交渉も任せている。パートは販売動向や原価を踏まえた一票を投じやすい環境が整っていた。価格総選挙により、現場の従業員の権限を値付けにも広げる。 親会社でディスカウント店「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、2019年にユニー株の60%を取得し完全子会社にした。現場への権限委譲はPPIHによる改革の一環で、ドンキ流の個店経営のノウハウをアピタやピアゴに注いだ。売り場のことを来店客視点で「買い場」、パートを「メイト(仲間)」と呼ぶ言葉遣いも定着した。 「あとひと押し、ふた押し足りないよね」。価格総選挙はユニーの渡辺氏と榊原社長が24年1月ごろに業績への物足りなさを話し合ったことがきっかけとなった。渡辺氏は打開策を探る中で、「顧客を驚かせるには、まず従業員を驚かせよう」と従業員を巻き込んだ選挙を着想した。 ユニーを中核とするPPIHの総合スーパー事業は、23年6月期で営業利益が前の期比10%増の280億円だった。売上高営業利益率は6.1%と、薄利多売になりがちなスーパーとしては高い水準だ。ただ社内には「価格競争が激化する中で収益性の改善を優先させ、価格競争力で市場の中で劣ってしまった」(ユニーの片桐三希成副社長)との危機感がある。売上高は過度な値下げを抑えたことで2%減の4619億円にとどまった。 そもそもアピタやピアゴは生鮮品の鮮度といった品質を売りとする一方で、価格が割高なイメージが強かったという。従来も競合店の値段を調べて値段に反映していたが、「最安値に設定しきれず、パンチ力に欠けていた」(ユニーの榊原社長)。顧客層は50~60代がメインで、若いファミリー層などの開拓が課題だ。