ドンキ流、客の心つかむ値下げ 特売品はパート店員が決める
「価格を破壊せよ」――。5月24日、大型スーパーの「アピタ千代田橋店」(名古屋市)の事務所を訪れると、こう書かれた黄色い投票箱が机の上に置いてあった。従業員による投票で値下げする商品を決める「価格総選挙」の第2回選挙の投票期間が始まっていた。業務の合間に「何選んだ?」などと話し合うパート従業員の姿もある。 【関連画像】対象商品の値札には店長の写真をコメント付きで添えている(写真=早川 俊昭) 制度は、同店を運営するスーパー大手ユニーが導入した。3カ月に1回、東海地方を中心に展開する「アピタ」「ピアゴ」を中心に各130店舗で、従業員から値下げしてほしい商品を希望価格と合わせて募る。 第2回選挙に投票できる従業員はパート店員約1万9000人。投票の結果から各店で最大300商品程度を選び、2~3割ほど値下げする。このため値下げ対象商品は店舗ごとの130通りとなる。値下げする候補にはトイレットペーパーなどの日用品も含むが、肉や野菜といった生鮮品や、酒、総菜などは対象外とする。 ●月間販売数が4倍に跳ね上がる アピタ千代田橋店では4月から、第1回選挙で上位につけた卵やウインナー、洗剤などを値引きした。地元名物のラーメン店「スガキヤ」の袋めんは198円(税抜き)と従来比23%値下げしたところ、販売数が約4倍にあたる月約1000個に増えた。「対象商品の一部は仕入れが追い付いていない」(同店の高橋利宏・食品副店長) 同店の五十嵐愛店長は「(値下げにより)赤字が出る商品もある」と明かす。それでも周辺の競合店から来店客を奪い、ほかの商品もまとめて買ってもらえれば利益を確保できる。値下げ前と比べて客数は4%増えた。 価格総選挙には、来店客に近い立場にある地元の従業員の意見を商品の値付けに反映させる狙いがある。客が「本当に値下げしてほしい」商品を、パート店員が目利きするわけだ。 ●パートだから大胆に値下げできる 発案者でユニー営業統括本部の渡辺英樹氏は「売価決定権は本来、ユニー本部にいる人たちではなく、各店舗の商圏に住んでいる従業員にあるべきだ」と語る。販売実績のデータから売れ筋商品を割り出して値下げする手法も考えられるが、渡辺氏は「データはあくまで過去。データを過信しすぎず顧客の目線で考える必要がある」と話す。 プライシングに詳しい野村総合研究所の下寛和プリンシパルは「(価格総選挙なら)本部や店長の判断では足踏みする水準まで大胆に価格を下げる提案を実現できる」と見る。加えて、各店舗は地域のニーズを踏まえて値下げする商品を決められる。「中京圏の店舗では味噌、関東ではお菓子がよく選ばれている」(ユニーの榊原健社長)。地元の相場を勘案して値下げ幅を決められ、全店舗一律の値下げと比べ販促効果を引き出しやすい利点もある。