「新入社員でもラクに1000万円超え」日本一給料が高いといわれる「投資銀行」の正体。社員が実行する、セオリーと真逆の「高く売って安く買う」手法とは
正義も社会的貢献もない
たとえば、ヘッジファンドや大金持ちが、ある株が割高になっていると考えたとする。すると、これからその株が値下がりすると予想して、その株を売る。そして株価が下がったところでその株を買い戻す、という具合だ。 ところが、当初、彼らはその株式を実際に保有しているわけではない。そこで私の出番だ。私が彼らにその株を貸し、彼らはその株を市場で売る。私は彼らから株のレンタル料を受けとるが、これがときには莫大な金額になる。 私がその株をどうやって調達するかというと、その株をポートフォリオに組みこんでいる機関投資家、年金基金、投資信託会社、エンダウメント(寄贈基金)、保険会社から借りてくるのだ。つまり、私はこの取引の仲立ちをしているわけで、片側にヘッジファンド、もう片側に様々な機関がいて、私──つまりゴールドマン──がその手数料をもらうというわけだ。 この話をブリンマー大学でリベラルアーツを学んでいた友だちに話すと、まるで私が無意味なテレビゲームでもやっているかのように、それにどんな意味があるのかという顔をする。なぜ空売りなどしたがるのか、と。 ある株式が割高になっていると思った顧客は、そこに利益が生まれる可能性があると考える。たとえば、XYZ社の株が1株あたり100ドルで取引されているとしよう。あるヘッジファンドがその会社の業績や貸借対照表を調査して、適正な株価は60ドルだと判断したとする。 すると、1株あたりの差額40ドルから私への手数料を差し引いた分が利益になる。そして私は、その株式を元の持ち主に返す。空売りはよくできたストラテジーで、いつも投機家の読みがあたるとはかぎらないが、多くの場合、彼らの投資家にじゅうぶんなリターンを提供できている。 ここで語られているのは、投資銀行が行なっている業務のほんの一部だ。ただ、株式を持ち主から借りてきて、その株を市場でたたき売り、株価が下がったところで買い戻す。株式の本来の持ち主に返すのは、安く買った株になるから、高く売って、安く買うことになり、利益が生まれるのだ。 たしかに利益は出るが、そこにはなんの正義も社会的貢献もない。 あるのは、自ら相場を動かし、そこから利益をひねり出すというマネーゲームの発想だけだ。 写真/shutterstock
---------- 森永卓郎(もりなが たくろう) 1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。経済企画庁総合計画局、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。堅苦しい経済学をわかりやすい語り口で説くことに定評があり、執筆活動のほかにテレビ・ラジオでも活躍中。2023年12月、ステージ4のがん告知を受ける。 ----------
森永卓郎