「新入社員でもラクに1000万円超え」日本一給料が高いといわれる「投資銀行」の正体。社員が実行する、セオリーと真逆の「高く売って安く買う」手法とは
「高く売って安く買う」
業界最大手、ゴールドマン・サックスの実態を、同社に18年在籍した女性が『ゴールドマン・サックスに洗脳された私』(ジェイミー・フィオーレ・ヒギンズ著、多賀谷正子訳、光文社)という暴露本にして出版した。そこから引用しよう(引用元は「現代ビジネス」2024年4月25日)。 ゴールドマンの部屋は、高校の教室とさほど変わらない。そこにいる人たちの気質はよく似ている。ただし、彼らがやるのは勉強ではなく仕事だ。リサーチャーやストラテジストは〝おたく〟気質。スプレッドシートや調査レポートにじっくり目を通し、市場の先行きを予測するのが好きな人たちだ。バンカーはいわゆる〝お坊ちゃん・お嬢ちゃん〟タイプ。完璧な着こなしで品のいい話し方をし、フォーチュン500の企業のCEOに、いつでも買収のアドバイスができるよう準備を怠らない。 このふたつのタイプの人たちはロッカーの場所にもこだわりがあるし、経営幹部のオフィスのすぐ近くに自分の席を持ちたがる。といっても、経営幹部はいつもそこにいるわけではない。世界じゅうを飛びまわり、顧客にゴールドマンを売りこんでいる。とても忙しい人たちで、彼らのアシスタントには、さらにアシスタントがついている。 セールス&トレーディング部門の人たちは、さしずめスポーツ選手。トレーディング・デスクがロッカールームと呼ばれるのもうなずける。私が所属しているのはそこだ。のちに別のビルに引越しをした際は、〝カジノ〟という愛称がつけられた。トレーディング・デスクが並んでいるのはフットボール場よりも広いところで、窓はなく、高い天井に明るい蛍光灯がついている。このカジノには時間の感覚というものはない。社員の集中力が続くように、経営幹部が密かにこの部屋の酸素濃度を高めているという噂もあるほどだ。 この仕事をやりたいからこの部署に来た、と言えればいいのだが、ゴールドマンとなるとそうもいかない。私が最初に面接を受けたのがこの部署で、ちょうどアナリストに空きがあったので仕事がもらえた。それだけのことだ。そう簡単には手に入らないゴールドマン・サックスのアナリストの職を得ることができ、きっと家族も誇りに思ってくれるだろうと考えると、ただただ嬉しかった。アナリストの仕事は一流で年収も高い。ここで働けるなら、どの部署であっても断らなかっただろう。 職場には〝選ばれし人々〟がいる。コネや家柄で雇われた人たちだ。プライベートジェットでナンタケット島【訳注:マサチューセッツ州の南にあるリゾート地】に行くために、毎週金曜日には早めに退社していく女性や、毎朝、二日酔いで遅れてくる男性などがいる。 彼らは身を粉にして働く私たちとは違うルールで生きている。ミシェルとソフィアは、この〝選ばれし人々〟だ。私が採用通知をもらうまで35回も面接を受けたと話したら、きっとふたりは卒倒することだろう。彼女たちはたったの数回しか面接を受けていないらしい。 ミシェルの父親はゴールドマンの顧客だし、ソフィアの父親はゴールドマンのパートナー(共同経営者)のゴルフ仲間だそうだ。ふたりとも、ゴールドマンに就職するのは簡単だと思っていたという。 幸か不幸か、いまはここが私の世界だ。そして、株にまつわる言葉が私の専門用語。「ゴールドマンでどんな仕事をしているんですか?」と訊かれたら、グローバル・セキュリティーズ・サービスで、セールス・トレーダーをしていると答える。 ここでは200人のスペシャリストが働いている。さらに詳しい仕事内容を答えても、聞いているほうはあくびが止まらず目もすわってくることだろう。〝空売り〟〝ターム・ファンディング〟〝再担保契約〟などの用語を聞かされても眠くなるに違いない。 簡単に言うと、株式市場では「安く買って高く売るのがいい」というのが一般的な考えだ。でも、私の仕事では順序が逆になる。つまり「高く売って安く買う」のだ。