【バレー】駿台学園中男子が全国大会で“決勝だけの特別な儀式”を準々決勝で解禁した理由と貫いた全力プレー
「ベストゲーム」と石井コーチ。海川監督も「よく頑張った」と称えた
結果として、またしてもセットを取ることはできず、0-2(20-25,23-25)で敗れる。8度目の日本一を目指した戦いは、ここで幕を閉じた。もちろん悔し涙があふれ出たが、駿台学園中の面々はどこか清々しい。選手たちの姿を身近で見てきた石井コーチは称えた。 「今まででいちばんよかったですね。実力はあるのに、心の弱さや気持ちの面で最後は負けてしまう、そんな代だったんです。ですが準々決勝は気持ちが全面に出ていた。ほんとうにこの1年間で、ベストゲームだったと思います」 中でも気迫全開だったのはキャプテンの星越だ。海川監督いわく、「人一倍に男気がある」星越はコート上でのリーダーシップに加え、アタッカーとしても目いっぱいにスパイクを放つ。その姿に海川監督も「ほんとうに頑張りましたね。みんなを引っ張ったし、あそこまで打ち抜くとは」と手放しで称賛した。 その星越は一つの決意を胸に、全中へ臨んでいた。応援席には横断幕ともう一枚、メンバーたちの手書きが施された布が掲げられていた。それは関東大会決勝で安田学園中(東京)に敗れたあとに、全員で話し合って決めたものだという。そこに、星越しが記した言葉は「俺についてこい!!」だった。 「エースは自分だ、と思ったので。最後の最後まで、みんなには自分を頼ってほしかったんです」 結果的に最後となった戦いで、仲間たちは背番号「1」に何度もトスを託した。「最後まで自分にボールを上げてくれた。書いてよかったです」と星越は笑顔を浮かべた。
「150%の力を発揮して負けたので。悔いはありません」(星越)
星越は駿台学園中に入学する前、チームの紹介ビデオを受け取っている。それは2019年の和歌山全中の映像であり、そこでは駿台学園中の部員たちが大きな円をつくって「ハーモニカ」を繰り出す場面が映っていた。果たしてチームは日本一に輝き、これは現時点で最後の全国制覇となっている。 「それを見て、知りました。憧れましたね」と星越。とはいえ、そう簡単にできるものではない。石井コーチが言うに、「3年生たちからは『やりたい』『やらせてください』という声は上がる」のだが。 そんな神聖な儀式を解禁した。石井コーチが海川監督に打診し、実際にやることが決まった瞬間から星越は胸が弾んだ。 「ギアが一個、二個上がりました。それに踊っているときは、ほんとうに楽しかったです」 敗れはしたものの、「自分たちが150%の力を発揮して負けたので。悔いはありません」と星越。試合後に清々しさを覚えたのは、彼らが全力プレーを最後の瞬間まで貫いたからだ。海川監督は言う。 「チームワークと粘り強いバレーを見せてくれました。それこそが駿台学園の伝統であり、我々は何よりも一生懸命にやることが第一ですから」 そうさせるために、儀式の封を解いたのか。それとも、儀式をやったからこそ、そうなったのか。確かなのは、今夏の全中を戦った彼らが「ハーモニカ」を踊るにふさわしい選手たちだった、ということである。 (文・写真/坂口功将)
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