大型トラックの衝突被害軽減ブレーキ、居眠り運転で効果減 広島大と福山通運がドラレコで解析
現在の新車の大型トラックにはAEBSの搭載が義務化されており、今後数年のうちに全ての自動車に搭載される見通し。塩見教授によると、普通乗用車ではAEBSは一定の効果があり、交通事故数の減少に寄与しているという。しかし、AEBSの機能を高めすぎると、通常走行中のやむを得ない車体同士の接近時にも急停止することになり、かえって事故を起こすというジレンマがある。
「物流の2024年問題」に対応するため、2024年4月からは大型トラックの最高制限速度が時速80キロから90キロに引き上げられた。熊谷准教授は「速度制限の引き上げは事故が増えるのではないか。大型トラックは重量があるうえ、重心が高い位置にあるのでなかなか止まれない。安全や人命のことを考えると、速度を上げるのは無茶だなと思う」といぶかしむ。
事故動画を見た塩見教授は自動車メーカーに対し、なぜAEBSの効果が常にあるわけではないのか尋ねたところ、「周囲の明暗状況やオフセット(自車両と相手車両の位置のずれ)が生じているため」との回答だったという。塩見教授は「トラックはもっと『止まれる』ほうが安全。それを分かってもらうには数字を出さないといけないと思って研究してきた。AEBSによって時速80キロが60キロになったとしても、20トンのものがドンとぶつかれば危険」と指摘する。その上で、マイクロスリープの研究結果と併せて考えた場合、「AEBSだけでなく、マイクロスリープを早期検知して運転に介入する装置などもあったほうがより安全な運転につながるのではないか」と述べた。
一連の研究は福山通運による2023年度までの3年間にわたる寄附講座で行った。論文の共著者でもある福山通運の川口健吾安全管理課長は寄附講座について、「トラックドライバーへの睡眠衛生指導を拡充し、今後も不足が見込まれるドライバーの健康管理と人員の定着につなげたい」としている。
川口課長によると、交通事故の動画は警察や保険会社、運送会社などが持っており、外部に出ることがなかった。だが、今回の産学連携で、ドライブシミュレーターなど、いわゆるテスト環境下ではないリアルな結果を得ることができたことは大きな成果としている。これらの研究結果から、「AEBSをはじめ運転支援装置はあくまで補助装置であり、危険な居眠り事故防止には各自が睡眠の質や量の向上に取り組むしかない。各企業がそういった認識で、ドライバーを啓発しサポートすることが大切」と振り返った。
今回の成果に関する論文は8月22日に米国の学術誌「スリープ」に掲載され、広島大学が9月18日に発表した。