14歳で決意したガラス工芸「江戸切子」の道 「職人はお金じゃない」というイメージに一石を投じる伝統工芸士の思い
◆「良いもの」にこだわりたいからと、時間をかけていては伝統工芸が衰退していく
――清水さんが江戸切子職人として大切にしている思いとは何でしょうか? 僕は、皆さんが思ういわゆる「職人」のイメージとは結構違います。 世間一般的にメディアでよく見る職人像って「お金じゃない。職人は良いものを作るんだ。いくら時間をかけても良いものを作るんだ」というイメージが強いと思います。 僕はこういうイメージが浸透しているから、伝統工芸が衰退していくと思っています。 たとえば、1000円で販売するものを、2時間かけて作ると収支はマイナスです。 1000円で売れるものは、2~30分で作らなくては利益を生み出すことができません。 良いものにこだわりたいからと、時間をかけていてはダメなんです。 江戸切子はもともと、庶民の日用品として誕生しました。 今は海外からの人気も高く、贈答用などにも重宝されていますが、観賞用の「作品」と、日常的にいつもの食事で使う「器」の価値は異なります。 伝統工芸品とは日常的に使う物であり、飾り物ではありません。 キヨヒデガラス工房では、器に切子した所を1本ずつなぞって磨いていく伝統的技法である「手磨き」を大切にしています。 でも、良いものも、知ってもらえなければ意味がありません。 お客様に知ってもらうためにも『集客』は最も重要ですので、現在ではYouTubeやSNSを活用し、江戸切子の制作過程や、切子体験の裏側など、江戸切子にまつわる動画を広く公開しています。
◆伝統工芸の発展のためには、成り手づくりが急務
――伝統工芸業界が抱える後継者不足問題について、どう考えていますか? 僕が独立した時には珍しかった、血縁関係のない師匠に弟子入りして独立するという流れも、今では増えてきました。 事業継承の具体的なプランはこれから検討していく段階ですが、一般的に伝統工芸士の収入イメージは低いものではないでしょうか。 たとえば、『年収1000万円の江戸切子職人』みたいなものが出てくれば、成りたいと手を挙げる人も増え、後継者不足問題を抱える業界全体が成長していけるのではないかと思っています。 職人は「お金」の話をしてはいけない、という風潮がありますが、事業を始めるにしろ、継続するにしろ、資本は重要です。 未来を担う今の子どもたちにも、早いうちから「お金」に関する教育は必要だと考えています。 僕の工房にも弟子が1人いますが、あの頃の師匠と同じように「早くやった方がいいよ」と言っています(笑)