日本で販売予定はないのに異例の試乗会、中国・吉利汽車が自慢するHEV技術の現在地は
ボルボの関与で技術が急速に進化
ジーリーの急速な技術進化にはボルボが関わっている。自社とボルボのエンジン部門を2021年、新会社「Aurobay(オーロベイ)」として統合した。この会社はハイブリッド車向けのガソリン・ディーゼルエンジンや代替燃料を用いるエンジンのほか、ハイブリッド車専用のトランスミッションを手掛けている。2024年5月31日には英国で、日産自動車や三菱自動車を傘下に持つ「ルノー・グループ」とエンジンの開発・生産をおこなう新会社「ホース・パワートレイン」を設立している。この会社はルノー・グループとジーリー・グループの車種だけでなく、他社への供給も視野に入れている。 これらの枠組みで開発されたエンジン技術はPHEVやEREVだけでなく、新エネ車に分類されない通常のハイブリッド車(HEV)にも応用されている。今回日本で試乗の対象となったハイブリッド車もそのひとつだ。 星瑞Lは2020年にマイナーチェンジした新モデルで、サイズは全長4825 mm×全幅1880 mm×全高1469 mmとなる。プラットフォームにボルボ C40/XC40と同じ「CMA」を採用し、パワートレインはBHE15-BFZ型1.5ℓ直列4気筒ターボエンジンを基幹とするハイブリッドだ。熱効率は44.26%を達成した。ロングストロークエンジンなので最高出力は5500回転で147 hpにとどまり、エンジンが不得意とする領域をモーターで補う形となる。トランスミッションには自社開発の3速ハイブリッド専用トランスミッション(DHT)「DHT Pro」を搭載。エンジンとモーターそれぞれにギアを3つ用意し、「エンジンとモーター」「モーターとトランスミッション」間にクラッチを搭載して駆動をスムーズに切り替えられる。 一方、星越Lは全長4795 mm × 全幅1895 mm × 全高1689 mmのSUVで、2023年12月発売の最新モデルでは星瑞Lと同じパワートレインを搭載する。つまり、今回の2車種は基本的に同じ心臓部を持つため、最も大きな違いは「セダンかSUVか」にある。 試乗会初日は筑波サーキットを会場に、この2車種をトヨタ自動車の「カムリ」やホンダの「CR-V」と比較し、性能を確かめるという趣旨で開催された。筆者もコース上に設置されたパイロンに沿って加速、ブレーキング、スラロームなどを体験した。車体の安定感やパワートレインのスムーズな駆動を実感できた。 2日目は動画撮影を目的として群馬県榛名山を舞台に星瑞Lはカムリとの「峠・対決」、星越LはCR-Vとの「高速道路燃費対決」に挑んだ。その様子は中国の自動車動画メディア「30秒懂車」にて生配信され、合計で5万人超が視聴した。 筆者は後部座席に座って乗り心地などを確認。星瑞Lは最大トルク320 Nmを誇るモーターを武器に、峠でも難なく加速できた。車体自体は重めなので軽快さはないが、加速は十分に気持ち良い。一方で、乗り心地は柔らか目に設計されており、サーキット走行時に比べ、より左右に揺さぶられる感覚だった。 「峠・対決」では単に峠を走るだけでなく、人気漫画「頭文字D」のようにコップ1杯の水と豆腐を室内に搭載し、カムリと星瑞Lでどちらがより崩れないかも比較された。車自体の性能とはまったく関係ない対決だが、生配信のコメント欄は「ジーリーの方が優れている」という趣旨の応援メッセージであふれていた。 ジーリーは試乗会および、動画配信のため、中国で販売中の2車種を日本に持ち込んだ。ただ、ジーリーはメディアの取材に対し、この2車種で日本に進出する計画はないとはっきり答えた。今回のイベントは、自社製品が日本車より優れていることを中国国内の潜在顧客に示す販売促進が狙いだったようだ。