103万円の壁議論、開かれた“聖域” 揺らぐ自民税調の権勢
年末にまとめる税制改正の最大焦点である「103万円の壁」引き上げを巡る議論が続いている。自民、公明両党は少数与党転落で、権限を振るっていた自民党税制調査会の存在感は低下し、壁見直しを求める国民民主党が主導権を握る。閉鎖的とされた税制協議に野党が加わり透明性が高まる半面、減税を望む世論に配慮するあまり、税制の趣旨や税体系のバランスを踏まえた専門的な見地が軽視される危うさもはらむ。 (大坪拓也、小川勝也) 【写真】国民民主党の古川元久税調会長 「奥の院で決まるというのが自民党税制調査会の議論だった。できる限りオープンにしていく」。国民の古川元久税制調査会長は2日、議論に参加する意義を強調した。 国民生活や企業活動に影響を及ぼす税制改正は、自民税調の意向が最優先されてきた。税財政や各業界に通じた「インナー」と呼ばれる一握りの議員の会合で税制改正大綱の方向性を定め、公明党との調整後に与党案ができ、閣議決定されるのが通例。国会で法案修正はほぼなく、「公平・中立・簡素」が理想の税を「密室で決めている」との指摘は根強かった。 時の首相さえ口を挟めず“聖域”とされた時代もあった自民税調は今や昔。先の衆院選後は自公が党内で議論した内容をすり合わせた後、国民の意向を聞くというスタイルに変化し、3党協議は既に2回行われた。国民側は、所得税の非課税枠「103万円」が設定された1995年に比べ最低賃金の全国平均が約1・73倍になったとして、178万円への引き上げを要求している。 自民側は、7兆円超の税収減や、所得税の課税最低限を緩やかな物価上昇率に合わせてきた過去を踏まえ「国民案は非合理的」(税調幹部)との立場。消費者物価指数(総合)は95年と比べ2024年は1割強の上昇とされ、引き上げ幅の目安になるとの声もある。 複雑な体系の税制は精緻な議論が前提だった。与党内では、衆院選の躍進を理由に国民の要求を丸のみするのに抵抗がある一方、補正予算案成立のために一蹴できないジレンマも。そこで与党側は国民に“宿題”を出した。「減税の目的は消費喚起か、家計への配慮か」「財源は経済効果による増収か、歳出削減で捻出するか」-。国民は週内にも答えを返す方針だ。 現時点では両者の隔たりはあまりに大きく、着地点は見いだせていない。与党内では「結局財源は国債に頼るしかない」(財務政務三役経験者)と“安易”な解決策に走る懸念もある。別の税調幹部は「恒久財源を国債で賄うのはあり得ない」と憂える。 「税というのは基本的に理屈の世界で理屈がしっかり立つ結論にしなければいけない」。自民の宮沢洋一税調会長は原則論を強調しつつも、政治決着を優先させる可能性も示唆する。 「交渉ごとであり、どこまでそれ(理屈)を貫き通せるかは今後の話だ」