日本のエンジンはまだまだ進化する 将来のクルマの電動化支える3つの技術
実はこのシステム、全て安価で丈夫で効率が良くメインテナンス性が高いM/Tをベースにしたコンポーネンツシステムになっている。 それを成立させたのは、まさにコロンブスの卵のようなアイデアだ。一般にハイブリッドはトルクを断続するクラッチのエンジン側にモーターが付いているので、クラッチを切るとエンジンとモーターがどちらもタイヤに動力が伝えられない。これではトルク抜けのケアはできない。そのためには少なくともクラッチより下流にモーターを据え付けなくてはならない。クラッチを切ってエンジントルクがタイヤに伝わらない間、モーターがクラッチより下流のタイヤ側にあれば駆動力を補うことができる。
「エンジン→クラッチ→トランスミッション→デフ」と並ぶパワートレーンの最下流にモーターを取り付けた。しかもモーターの回転数を最適化させるためにチェーン&スプロケット式の減速機を備える。モータートルクの増大を図るのみならず、システムの横幅の増大を防ぐことも狙ってコンパクトなシステムに仕上げている。 このシステムは、従来の小型車用変速機の「帯に短かき襷に長し」を解決する優れた変速機を内包したハイブリッドシステムであり、中期的には小型車のスタンダードになって行くだろう。 日本は電動化に出遅れたなどという巷間の流説に惑わされではいけない。電動化とは「モーターオンリー」を指す言葉ではない。何らかの電動駆動システムを備えたものは全て「電動化」の枠組みに入っている。そして販売台数で見る限り、当面の主役は、もう明白にハイブリッドである。何も日本のメーカーだけが言っているのではなく、ベンツもBMWもフォルクスワーゲングループもボルボも全く同じ定義だし、ハイブリッドが商品の中心になる。 ここに挙げた3つの技術は、少なくともこれから10年、クルマの電動化を支えて行くに違いない日本の技術である。日本は全く遅れていないし、ガラパゴス化もしていないのだ。
------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある