子どもたちにスポーツを心から楽しんでもらいたい。「監督が怒ってはいけない大会」代表・益子直美さんの想い
ハラスメントによって子どもの主体性が育ちづらい
――そもそも、スポーツの現場でのハラスメントは子どもたちにどんな影響を与えるのでしょうか、 益子:あくまでも私が体験したことに基づいてお話ししますが、まずは子どもたちの主体性が育ちづらくなってしまうと感じます。誰かに指示されければ判断できない、行動することができないという状態になってしまうんです。 また、自信も持てなくなります。私は全日本の代表に選ばれて、エースになっても自信が持てなくて、練習や試合中も常に怯えていました。トスが上がらなければいいのに……、私にボールが回ってこなければいいのに……と思っていたくらいです。 そもそもプレー中にミスしたときに、「気合いが入っていないからだ!」なんて怒るのは意味がない。ミスをしたときには、フォームが合わなかったとか、ジャンプのタイミングがずれていたとか、そういった技術的な原因があるはずです。 でも、それを指摘せずに、全てを気合いや根性のせいにされてしまったら、その子のミスは改善されません。だから同じミスを繰り返しますし、自分のメンタルが弱いせいだなんて思い込んでしまいます。そうしてどんどん追い込まれていくんです。 北川:妻も、バレーボール選手を辞めて社会に出たときに、どう動けばいいのか分からなかったと言っていました。それまで命令されたとおりに動いてきたから、急に解放されても、主体的に行動することが難しかったそうです。
――アスリート時代を終えてからの人生にも影響が出てしまうのですね。それなのに、スポーツ現場でのハラスメントや体罰がゼロにならないのはなぜだと思いますか。 益子:やはり、それ以外の指導方法が分からないんだと思います。特に昭和の時代を生きてきたような監督は、なかなか時代の変化についていけないところがある。 自分は年齢を重ねていくのに、毎年新たに入ってくる子どもたちの保護者の方は若いでしょう? すると、コミュニケーションにもズレが生じてしまう。やがて監督だけが孤立してしまって、意固地になってしまう。だから、どうしたらいいのか分からなくて悩んでいる監督も少なくないと思います。 ――「監督が怒ってはいけない大会」では、そういった監督に向けてアンガーマネジメント(※)に関する講座も開いていますね。 益子:講座を受けた監督の中には意識が変わって、子どもたちに怒鳴り散らしている監督に対して「そんなふうに責めてはいけない」「なんのために怒っているのか考えてみてほしい」と言ってくださる方もいるみたいなんです。 私が監督たちに対して「怒っちゃだめです」と言うよりも、監督同士で指摘し合う。そんなふうになっていくことが、私たちの活動の理想です。 北川:同時に保護者の意識も変えていかなければいけないと思います。保護者の中には、監督に対して「今年は強い子が揃っているから、上を狙えます。厳しく指導してください」なんて言う方もいるんです。 そうすると監督もつい過剰な指導をしてしまう。子どものうちは勝つことばかりを求めるのではなく、まずはその子たちの心と体を育むべきですね。押さえつける指導はやめて、主体性を尊重する。そうすることで、その子たちのやってきたことが中学生、高校生になったときに花開くと考えています。 ※怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニング。1970年代にアメリカで生まれたとされる