「吃音のハンデの克服には難関医学部に合格するしかない」吃音を持つ医師が“悩み続けた”半生を告白
“口頭”での学会発表にこだわったワケ
――一方で、大舞台で吃音が出ないこともあったという。 北村:大学の助教時代、大きな学会発表、確かプレナリーセッションで研究成果を口頭発表した際には、何故か発表時にも、質疑応答の際にも、全く吃音がでませんでした。気をよくして、次の学会でも普通に口頭発表をしようとしたところ、ひどくどもってしまい、おそらく、聞いているドクター方は、何を言われているか分からないくらいだったと思います。それでは研究内容がうまく伝わらないと思い、その後の学会発表では、スライドにあらかじめ録音して、流すように工夫しました。ただ、そのスライドの録音の際にも、何度もどもってしまい、たった1枚分のスライドを録音して完成させるのにも、何度も何度も撮りなおす必要がありました。 しかし、医者になって、研究留学をするという夢もあった私は、研究留学の道を切り開くために、ポスター発表という選択肢もある中、吃音のハンデと戦いながらもあえて口頭発表での学会発表を続けました。政府の助成金でニューヨークにある医大に研究留学させていただいたのですが、留学先は、自分で履歴書をあちこちの大学や研究機関に送って受け入れ先を探しました。100通以上も電子メールを送ってアプライしましたが、推薦状2通を要求してくださったのは、わずか十数か所。パリの学会のプレナリーセッションでも、録音したスライドで発表したのですが、カナダのトロント大学の准教授が、私の発表を聞いてくださり、トロント大学での学会発表に招聘してくだいました。留学の応募時の推薦状は、慶應義塾大学の教授お二人に加え、トロント大学の准教授にもお願いして準備していただのですが、最終的に決まった研究室は、そのボスが、私がパリの学会のプレナリーセッションで録音したスライドで発表していたのを見ていたそうで、履歴書、推薦状での書類選考後、電話での面接1本で、即決でした。 パリの国際学会での発表は、朝8時からの発表でしたので、ガラガラだろうと思っていたところ、私の発表内容はともかくとして、当時、その研究分野で注目されるような内容の発表が集まっていたこともあり、席がほぼすべて埋まり、壁際に何名も立っておられる状況で、おそらく、吃音があるからと、ポスター発表を選択して口頭発表をしていなかったら、留学の道は開けなかったと思います。