【#佐藤優のシン世界地図探索74】生活水準が向上したモスクワから見る「クルスク対テロ作戦」
佐藤 はい、クルスクは特別軍事作戦と分けて、対テロ作戦にしています。 ――テロの取り締まりであって、戦争ではない。だけど、敵の傭兵は皆殺しにして、ロシア軍兵士はウクライナの傭兵部隊の捕虜になる前に自決する。 佐藤 自決の強要はしないでしょう。 ただし、人命に対する意識が西側とロシアでは違うことを押えておかなければなりません。例えば、クルスクで逃げ遅れたロシア系住民の中には、ウクライナ軍によって拷問される人も出てくるでしょうが、「悪いけど国のためだと諦めてくれ」となります。 ――お国のために非戦闘員の一般住民も頑張れ、と。しかし、クルスク奇襲に参加したウクライナ軍の傭兵は、ロシア軍の対テロ戦の話を聞いたらビビッて逃げたいと思うでしょうね。 佐藤 ウクライナ軍は督戦隊(とくせんたい)を置いているから、傭兵たちは逃げられません。 ――督戦隊とは、自軍を後方から監視して、命令に背いたり最前線から逃げる自軍兵士がいれば、後方から迷わず射殺する。地獄から来た部隊でありますね。クルスク戦線はまさに地獄であります。 佐藤 ロシアは「われわれは傭兵を雇っていません。その代わり志願兵という形を取っています」という建前です。給料は年間いくらだと思います? ――報道だと、貧乏な村で10年分の給料を稼げると言っていました。 佐藤 520万ルーブル、一年間で900万円です。モスクワ市民の平均年収が96万ルーブル、150万円です。 ――一番裕福なモスクワ市民の年収の6年分を1年で稼げる。貧乏な村ならば、10年分は軽く超えますね。 佐藤 日本のメディアでは「息子を徴兵で獲られた」といったニュアンスでよく報道されています。しかし、ワンクッション抜けているんです。それは、志願して前線に行っているということです。徴兵で行くと、一ヵ月5000円の給料で年収は6万円。それが「志願します」と手を挙げれば年収900万円になります。 ――それなら母さんに黙って志願して、年収900万円にしますよね。 佐藤 やはり、人間は合理的に動くと思いませんか? ――合理的も何も金ですよ、金! 佐藤 お金が欲しくなって戦地に行くことを、そんなに責められませんからね。 ――ロシアは金で若者の心を揺さぶっていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領はクルクス奇襲で「プーチン政権を揺さぶれる!!」と勢いづいております。