アジア杯敗退は必然だった─元日本代表監督フィリップ・トルシ工が明かす「森保ジャパンの弱点」
完敗だった。とくに後半は防戦一方。 アディショナルタイムに入ると、ついに守備陣が耐え切れなくなり、イランにPKを献上。悲願のW杯ベスト8に向け、アジア王者となることが使命となっていた森保ジャパンは、アジア杯ベスト8で敗退という屈辱を味わった。 【画像】アジア杯ベスト8で敗退……肩を落とした「DF毎熊とGK鈴木」の姿が… 国際親善試合でドイツら強豪国を撃破し、「史上最強の代表チーム」とスポーツメディアに持ち上げられていた第2次森保ジャパン。 だが、その″綻び″は明らかで、真剣勝負となれば対戦国が見逃してくれるはずもなかった。たとえば、アジア杯グループリーグで激突したベトナム代表は、FIFAランキング94位と17位の日本のはるかに格下ながら、2得点をあげて一時、日本をリード。2‐4で逆転負けを喫するも、あわやの善戦を演じたのだ。 ベトナム代表の監督は、’00年のアジア杯で日本代表を優勝に導いたフィリップ・トルシエ(68)。日本を熟知する指揮官が敢えて″古巣″の弱点を指摘した。 「アジア杯に臨むにあたり、日本の試合をすべて見て、中盤に守備ブロックを構築することに決めた。目的は日本の攻撃を分断すること。ミドルゾーンからプレスをかけて、彼らが後方からアタックせざるを得ないように強いる。力関係を考えれば、ベトナムが守備する時間が全体の70%になるから、規律を保ち、組織を維持することをチームに求めた」 日本を倒したイランも同じ戦略を採った。中盤を固められたことで、日本代表は攻め手に欠き、バックパスをするシーンが何度も見られた。高い位置――ミドルゾーンにディフェンスラインを設けてプレスをかけることで「ショートパスを繋ぎながら、一気に攻め上がる日本の得意とするスタイルを崩すことに成功した」と、トルシエ氏は胸を張った。 「日本代表はロングボールを蹴りこんでこないから、ゲームをコントロールしやすかった。中村敬斗(23)や伊東純也(30)など危険な選手に注意は払ったし、左SBの伊藤洋輝(ひろき)(24)は中にカットインしてくる傾向がある、といった情報は共有したが、選手個々に対する特別な戦略はなかった」 得点は、あらゆる状況を利用した。 とりわけセットプレーが重要で、ベトナムの2得点はCKとFKから生まれた。「ベトナムには優れたストライカーはいないから、相手に危険をもたらす唯一の武器であるセットプレーを入念に準備した」とトルシエ氏も認めた。 1点目のCKはニアポストを狙った。この形から多くのゴールが生まれていて、練習を重ねた成果が出た。2点目は日本が小さなミスを犯した。DFがセカンドボールへの集中力を欠いた。イラク戦でもFKから得点した。大会を通してベトナムは4点を決めたが、そのうち3点がセットプレーによるものだった」 ◆「自信が欠けている」 そう誇った後、トルシエ氏は「日本が埋めるべき3つの穴」を指摘した。 「敢えて弱点を指摘すれば、ディフェンスということになるだろう。それは、日本代表がベトナム相手に簡単に2失点を喫したことで明らかだ。第一にゴールを守るGKの鈴木彩艶(ざいおん)(21)は経験が不足している。第二に伊藤ら若いDFたちに自信が欠けている。そして3つめはトランジション――守備から攻撃への切り替えが、スムーズとはとても言えない。日本がアジア制覇を目指すのであれば、克服していかねばならない課題だ」 しかし――「日本にはベトナムにない武器があった」とトルシエ氏は”古巣”へのフォローを忘れなかった。 「ベトナム戦での日本の2点目はパスを繋いだ後に南野拓実(29)が素早くボールをコントロールして決めたもの。3点目は中村の個人技によるもので、上田綺世(あやせ)(25)の4点目も同様に″個人の力の爆発″によるものだった。戦術的には日本の攻撃にすべて対応したが、個の力がベトナムを破った」 攻撃能力を絶賛した後、 「日本には勝つな! とも私は言った」 とトルシエ氏はいたずらっぽく笑った。 「ベトナムが日本を破ったら、ベトナムメディアは間違いなく『日本は酷(ひど)いチームだった』と言うと思ったからだ(笑)。彼らはベトナムが勝てば相手が酷かったと言い、負ければ自分たちが酷かったと批判するが、サッカーの真実はそんなに単純ではない。 ここから先、日本がW杯のベスト8やベスト4に進んでいくために必要となるのは何か……チームのクオリティはそのエンジン、原動力による。つまり選手の力だ。優れたチームには、ヨーロッパのビッグクラブでプレーする名前の知られた選手たちがいる。彼らはチャンピオンズリーグで常にプレーしている。日本代表の何人がチャンピオンズリーグでプレーしているか。アーセナルの冨安健洋(たけひろ)(25)、レアル・ソシエダの久保建英(たけふさ)(22)……。日本人7~8人がビッグクラブでプレーし、チャンピオンズリーグに恒常的に出場するようになったとき、日本は新たなステップに到達する」 立ち止まっている時間はない。屈辱を糧に、前に進むしか道はないのだ。 『FRIDAY』2024年2月23日号より 取材・文:田村修一
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