「空のF1」8位の室屋が伝えたもの
「空中のF1」と呼ばれるレッドブル・エアレースの決勝ラウンドが17日、千葉の海浜幕張公園で行われ、日本人パイロット、室屋義秀(42)は、「ラウンドオブ8」と呼ばれる“準決勝”に進出したものの、安全確保のために規定されている「10」GのGフォースを超えてしまって“失格”。記録が認められず、日本初上陸となった千葉大会を8位で終えることになった。 それでも6万人を集めたファンは、室屋の攻めたレースに大喝采。原発事故のあった福島を拠点に活動を続け「現実を世界に正しく伝えるお役に立ちたい」という室屋の思いは「空のF1」の呼び名と共に日本から世界へ届いた。なお優勝は、室屋が敗れた相手だったポール・ボノム(英国)が、初戦のアブダビ大会に続いて連勝を飾った。
大歓声は、次の瞬間、「えーー」というどよめきに変わった。 「ラウンドオブ8」と呼ばれる「ファイナル4」進出をかけた準決勝。勝ち抜いた8人のパイロットが1対1で勝負していくノックアウト方式のレースで、先にフライトした室屋は、果敢に攻めて51.478の好タイムでゴールした。相手は、優勝候補のポール・ボノム。「このタイムなら勝負になる」という期待を込めた大きな拍手が海岸に巻き起こったが、場内放送を続けていたDJは、ターンでオーバーGがあったことを残念そうに伝えた。レッドブル・エアレースでは、安全性に配慮して速度制限とGフォース制限を設定している。Gの計器が各機に設置されていて、リアルタイムで、スクリーンと本部に掲示されることになっている。 無線で「10」のG制限を越えたことを知った室屋は、そのときの気持ちを「ガチョーン」という表現で示した。F1の倍とも言われる大きなGは、鋭角なターンを心がけるほどにかかる。しかも、千葉のコースは、3位に入ったマット・ホールが「ここのコースはユニーク。両端で大きく旋回をしなければならず、Gの負担がかかる。私は少し速度を落としながらターンとした」というようなGオーバーの危険がある特徴を持っていた。室屋は、地元開催の日本での表彰台を狙い、ギリギリの大勝負に出たが裏目に出てしまったのである。 「ラウンド8へ勝ち上がって、ボノムと戦うとわかった時点で、チームとしては、全開も全開、100パーセントで行くと決めていた。フライト自体は、いい感じだった。行けたかなという感触もあったんですが、101パーセントの力がはいって(笑)。少しオーバーGする結果になった。これが前の機体であるV2ならば、オーバーGとはならなかったんですけどね」 今大会からEDGE540の「V3」というニューマシンを導入。可能な限り軽量化を進め、キャノピーなどの空気抵抗を落として「V3・5」までに改良。「直線で30キロ違う」と室屋が感触をつかんだ新機は、直線型の幕張コースにこそ威力を発揮するものだった。マーティン・ソノカ(チェコ)と対戦した「ラウンドオブ14」では、50.779というコースレコードを叩き出して、54、753のソノカを寄せ付けなかった。前日の予選ラウンドは、9位に終わっていたが、スタッフがコンピューター解析してエンジンのセッティングをやり直した結果、その再調整がズバリ功を奏したのである。ラウンド14からラウンド8に進む際には、さらに10キロほどスピードが増すセッティングに変わっていたという。 だが、スピードが出る機は、一方でオーバースピード、オーバーGの危険と背中合わせである。またGが過ぎると脳に血液がいかなくなって気絶してしまうブラックアウトに陥る恐怖もある。室屋は「99.8パーセントの力をだしたパイロットが99.9パーセントの力を出したパイロットに敗れる世界」と、エアレースの過酷さを表現していたが、100分の1、1000分の1秒を争う、究極のモータースポーツの世界で、ギリギリまで攻めて敗れたのである。