「我々は澄んだ目を取り戻すことができる」カンヌ国際映画祭総代表、ティエリー・フレモーが語る映画の始まりと日本映画の未来
「これから出てくる監督にも期待を抱いている」 日本映画の現在と未来
―――本著には黒澤明、溝口健二、小津安二郎といった日本の巨匠への言及があります。日本の現役の映画作家で、フレモー監督がお好きな作家はいますか? 「名前を挙げることはできません。(名前を挙げられた人が他の作家から)嫉妬されてしまうかもしれませんからね。いずれにしても、カンヌのセレクションを見れば、巨匠クラスの作家のみならず、若い監督の作品も選ばれているということがわかるでしょう。私は短編映画の作家にも注目していますし、これから出てくる監督にも期待を抱いています。 フランス映画について同じことが言えると思いますが、たとえば成瀬巳喜男、小津安二郎といったかつての日本の巨匠と、現代の監督を結びつける何かがあると思っています。そして、日本の若い監督にも『七人の侍』や溝口健二の映画のような、歴史に根ざした作品が作れるはずだと思っています。 あえて日本の現代の映画作家の名前を挙げるとしたら、是枝裕和監督は今年、カンヌ映画祭の審査員でしたが、素晴らしい審査員でした。知識の深さ、感受性、いろいろなものを受け入れる懐の深さ、そのどの点においてもです」 ―――柔道発祥の地である日本で本著が出版されるということは、フレモー監督にとって格別の思いがあると思います。日本の読者にメッセージをお願いします。 「はい、とても特別です。この本では、日本人が知らないことについても語ることができたと思っています。また、この本では、柔道について書かれているともに、私の少年時代についても語られています。あなたも若い頃に格闘技をやっていたとおっしゃっていましたよね。この本のなかではクエンティン・タランティーノのフィルムについても書きましたが、その作品も(主人公たちの)若い頃についての話です。フランス人詩人ブレーズ・サンドラルはこう言っています。『映画とは世界の子供時代だ』と」 通訳:メルメ・小川・フロランス 【プロフィール :ティエリー・フレモー】 1960年、フランス、イゼール生まれ。カンヌ国際映画祭総代表、およびリュミエール研究所所長。9歳から柔道を始め、少年時代・青年時代を柔道に捧げる。四段を取得し、柔道の指導者となる。リヨン大学で歴史社会学を学び、同大学院博士課程に在籍中にリュミエール研究所で働きはじめたことから、柔道を離れる。現在は、同研究所の所長としてリヨンに拠点を置きながら、カンヌ国際映画祭のために世界中を飛びまわっている。2017年には、膨大な数のシネマトグラフの作品から108本を厳選してまとめたドキュメンタリー映画『リュミエール!』を製作し、監督・脚本・編集・プロデュース・ナレーションの5役をこなした。続編となる『リュミエール!リュミエール!』が11月22日より公開される。
山田剛志