宇宙ベンチャー「ispace」が大型増資をする思惑、株価上昇前提で調達手法の利点を強調する事情
2024年6月末時点で現預金は126億円保有するものの、短期借入金も78億円ある。この先のミッションでの打ち上げ費用や開発費もかさむため、資金調達は急ぎたい。加えて、自己資本の手当ても急務だ。6月末時点での純資産は80億円。会社計画では2025年3月期に124億円の純損失を見込んでおり、何も手を打たなければ今期末に債務超過になる可能性が高い。 日本オフィス オペレーション部門 執行役の岡島雄氏は「われわれの事業は、しばらくはどうしても赤字が続く。デットファイナンス(借り入れによる資金調達)も活用する一方、純資産もしっかり手当てすることが重要だ。そこはエクイティファイナンス(主に増資による資金調達)に頼らざるをえない」と率直に語る。
ただ、増資によって希望した金額を集めることは容易でなくなっている。 今年3月に実施した海外での公募増資では、新株の発行数が当初発表の最大2059万1900株に対し、実行できたのは半分の1025万株だった。調達額も当初見込みの145億円から84億円弱に下振れた。 岡島氏は「需要自体は当初のブックサイズをカバーできるものが集まっていた。ただ、投資家の方々と話をする中で、株価へのインパクトも考えて、最低限必要な資金を得るためのサイズに調整した」と、希望額を集められなかったわけではない、と説明する。
もっとも、3月の増資発表時の株価は1000円前後で、1株871円での増資だった。今回、1回目の増資は602円、新株予約権の行使価額は828円台。結果論だが、3月に最大限必要な資金を調達しておいたほうがよかったことになる。となれば、1回目は最低限必要な金額を調達し、2回目以降の株価上昇のストーリーにかけるしかなかったというのが実態ではないか。 ■4月以降、株価が大きく変動する可能性 順調に4回の増資が実行され今期末に債務超過を回避できたとして、その先を見据えると、来年4月以降に控える月面着陸の成否が株価を左右する分水嶺になりうる。仮に失敗すれば株価は大きく下がり、以降の増資の条件が一層悪くなることが考えられる。
月面着陸の再挑戦の結果が出る前に、少しでも多くの増資をしておきたい――。今回のファイナンスのスキームは、株価上昇前提で楽観的に見える。だが、実際には悲観シナリオに備えた布石なのかもしれない。
奥田 貫 :東洋経済 記者