宇宙ベンチャー「ispace」が大型増資をする思惑、株価上昇前提で調達手法の利点を強調する事情
また、新株予約権の行使価額を、各決議日前日終値の120%としたことも「株価がそれ以上にならなければ行使されない(=希薄化しない)」ため、株価への配慮となるという。 もっとも、「調達額を増やすことができる」のは、あくまでも株価が上昇した場合の話。目論見に反して株価が下がると調達額も減ることになる。新株予約権分については、各決議前日以降に株価が上がらなければ調達にさえつながらない。 ■低迷する株価の引き上げを狙う
会社側は、株価上昇を前提に今回のスキームのメリットを強調している。しかし、ispaceの株価はダウントレンドにある。 東証グロース市場に上場したのは2023年4月12日。翌日についた初値は1000円で、IPO時の公募価格254円の約4倍と高い期待を背負ったスタートだった。株価はしばらく上昇を続け、同社が「ミッション1」と位置付けた月面着陸への初挑戦を翌日に控えた4月25日は1990円で引けた。 だが、月面着陸に失敗すると2日連続でストップ安を記録。以降、急騰と急落を繰り返しながらも、今回の増資発表直前の株価は661円だった。
ここから株価を上げていけるか――。そんな疑問に対してispace関係者は「自信の表れとみてもらってもいい」と話す。 早ければ、12月には「ミッション2」を担う月面着陸船を搭載するスペースXの「ファルコン9」打ち上げが予定されており、そこに向けて期待が高まる可能性はある。また、「ミッション3」の月へ輸送する顧客荷物(ペイロード)の契約状況や、政府の宇宙戦略基金に絡む進捗を示すことで株式市場の評価を上げたい考えのようだ。
なお、リベンジを狙うミッション2の月面着陸が予定されているのは、4回目の発行決議日(2025年3月11日)よりも先の来年4月以降になる。 一方、株価の先行きに自信があるなら、なぜ今のタイミングで大型増資をするのか。結局、今回の選択の背景には、ispaceの決して楽ではない財務状況と事業モデルがありそうだ。 ■本格商業化前で赤字は続く ispaceが目指す月面輸送サービスは本格的な商業化には至っていない。先行サービスの提供に応じてペイロードの前受け金の一部を売り上げ計上しているが、当面は研究開発費が先行せざるをえず、まだまだ営業赤字が続く。当然、フリーキャッシュフローも赤字であり、財務キャッシュフローで補っている。これまで上場時を含む複数回の資本調達と多額の借り入れを繰り返してきた。