「かっこいい寝たきり」を将来のキャリアに。テクノロジーの力で、出かけなくても出会える世界へ
"かっこいい寝たきり"を将来のキャリアとして想像する
分身ロボットの開発は、吉藤さん自身が、病気で小学校から中学校にかけて不登校だった時に感じた、「自分の体がもうひとつあれば学校に通えたかもしれない」という思いがそもそものきっかけだった。 「当時の私は人とのコミュニケーションが苦手でしたが、オンラインゲーム上の友達とは話すことができていました。つまり、リアルが難しいだけで、人のことが嫌いというわけではない。そのことに気がついた時に、視力の弱い人には眼鏡があり、足が不自由な人に車椅子があるように、引きこもりなどの理由で直接的なコミュニケーションが困難な人に向けたコミュニケーションのサポート機器を作ろうと思い、生身の人よりも話しかけやすくて、仲良くなりやすいロボットの開発を始めました」 元々はコミュニケーションのサポート機器という発想から始まったOriHimeに、障がいを持つ人の社会参画というテーマが加わったのは、ALSや頚椎損傷などで寝たきりの生活を送る人たちとの出会いがきっかけだった。 「話すことができず、頷くことすら困難な彼らにとっては、指先から1センチ先がもう遠隔。手が届かないという意味では、1センチ先も宇宙も変わらないんです。そうした人々と出会ってからは、OriHimeを障がい者の社会参画にどう役立てていくかということがテーマになっていきました」 吉藤さんはここで改めて、「車椅子を使って外に出るという選択以外にも、社会参画の方法はあることを広めていきたい」と強調する。自宅や病院のベッドの上からであっても、リアルな体験と同じように、様々な人と出会い、対等な関係性を築きながら関わり合うことができるはずだ、と。 「これまで人間は、他者に頼らなくても生きていけるツールをたくさん作ってきましたよね。だけど誰にも頼らなくていいということは、誰からも頼られないことでもあると言えます。私は、テクノロジーを活用しながら、どんな人でも外に出て、頼ったり頼られたりできる社会を目指す方が健全だと思うんです」 また、吉藤さんは「障がい者=頼る人」「健常者=頼られる人」という図式や、障がいを持つ人に一線を引いてしまうことも、一面的な捉え方ではないかと語る。 「今の社会は、障がい者と健常者をはっきりと分けてしまっていますが、健康寿命を過ぎて、体を動かすことが難しくなる可能性は誰にでもあるわけです。寝たきりの先輩たちの中には、視線入力で絵を描いていたり、DJをやっているALSの方もいます。ぜひ皆さんには、『大人になったら何をしよう』、『老後の暮らしは何をしよう』と考える延長線上で、『寝たきりになったら何をしよう』と、"かっこいい寝たきり"を将来のキャリアとして考えてみてほしいんです」 自分が障がいを抱えた時のことを想像することができれば、障がいに対する考え方にもきっと変化が生まれるはず。社会全体の課題を自分ごととして捉えるためのヒントが、吉藤さんの話には詰まっていた。
取材:三菱電機イベントスクエア METoA Ginza "from VOICE"