「かっこいい寝たきり」を将来のキャリアに。テクノロジーの力で、出かけなくても出会える世界へ
ロボットの体を借りることで、肉体労働も可能になる
オリィ研究所が開発した「OriHime」(オリヒメ)は、障がいがある人の社会参加を無理なく、持続可能な形で実現できるロボットとして注目されている。ここで重要なのは、OriHimeは昨今話題のAIロボットではなく、遠隔で操作を行う分身ロボットである点。視線入力や画面のタッチを行いOriHimeを遠隔操作することで、ロボットの体を借りて、リアルタイムにその場に存在することが可能になる。 「近年、ZoomやSkypeなどのオンラインコミュニケーションツールでは、画面を通して顔を見せることで、対面の時と同様のコミュニケーションができるようになっています。しかし、入院中や化粧ができない時など、顔をあまり見られたくない時もありますよね。そうした時に、遠くにいて顔が見えない相手であっても、同じ場所にいると感じられるようなもう一つの体を作ることができないだろうかと考えました」 吉藤さんの親友である故・番田雄太さんは、交通事故による頸髄損傷で首から下がまったく動かなかったものの、OriHimeを介して吉藤さんの秘書として活躍。OriHimeの発展型である、身体労働を伴う業務を可能にする分身ロボット「OriHime-D」や、こうしたロボットが接客をする「分身ロボットカフェ」のアイデアは、番田さんとの会話から生まれた。 「寝たきりの人でも従事しやすい頭脳労働は、それなりのスキルや経験がないと雇ってもらえない仕事で、まずは肉体労働を経て、頭脳労働にステップアップしていくパターンが多いですよね。それだと体の動かない人は、ファーストステップを踏み出せない。だったら、肉体労働が可能になるテレワークを作ればいいのではないかと思ったのです」 2021年に、外出困難者である従業員が分身ロボットを遠隔操作しサービスを提供する 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」がオープン。現在は80名ほどがOriHimeを操作するパイロットとして働いている。さらに2023年10月のOriHime一般販売以降には、企業の受付や説明員など、活躍できる職場が広がっている。 「カフェのオープンから2年以上経った今では、接客だけでなく、後輩を教える立場の人や、シフトの作成やチームビルディングを担当する人、他企業から接客スキルを評価され、引き抜かれていくメンバーもいます。こうした流れの中で、リスキリングの機会作りや、人材紹介サービスなどの取り組みも、従業員から自発的に生まれはじめています。OriHimeは単なるロボットにとどまらず、寝たきりの先の働き方をみんなで考えるプロジェクトになりつつあるのです」